日本で消費されるチーズの約8割は、海外からの輸入品に依存している(※)。その中で、国産チーズを含む乳製品の国際競争力を高めるため、農林水産省の支援のもとさまざまな研究が進められてきた。
その一環として、日本獣医生命科学大学を中心に研究機関や企業が連携し、原材料のすべてを日本産にこだわった本当の「メイド・イン・ジャパン」のチーズ「麹チーズ蔵」が開発された。独自の風味と旨味を持つこの製品は、株式会社HBがプロモーションを担当。代表取締役の村田氏もこのチーズに惚れ込み、その魅力について語っている。
※農林水産省資料:令和5年度チーズ需給表より
「世界に負けない国産チーズを」このスローガンのもと、大学の研究室や麹菌を培養する種麹メーカーなどが協力して開発したのが「麹チーズ蔵」である。国菌である麹菌、日本産の牛乳、酒粕などを原料に、日本独自の風味を実現している。麹菌を使ったチーズの発想自体は以前から存在し、研究もされてきたが、これまで実用化には至らなかった。しかし、技術の進歩、新たな理論の解明により、市場に流通する品質が確立され、麹チーズは世界初の麹菌を利用したチーズとして2020年に一般販売が始まった。
このチーズは麹菌で発酵・熟成させたソフトタイプで、非常に食べやすい。見た目はカマンベールチーズに似ているが、旨味成分はその約5倍に達し塩分は100gあたり0.93gと控えめである。また、日本酒の製造工程で発生し、そのほとんどが通常は廃棄される酒粕を配合しており、これによりSDGs(持続可能な開発目標)に貢献する取り組みも併せ持つ。環境への配慮と和の風味が融合した「麹チーズ蔵」は、国産のチーズとして国際競争力を高めるだけでなく、日本の伝統と革新を体現する製品となっている。
和の風味が日本酒や和食と好相性
新しい国産チーズが完成したといえども、重要なのはその味だ。麹チーズは独特の味わいを持ちながら、初めて食べるのにどこか懐かしさを感じる。これは、日本の伝統的発酵食品である味噌や醤油を思わせる旨味があるから。味噌や醤油などの発酵食品にも使われる麹菌を使って発酵させた結果、これらの調味料と共有できる風味が生まれた。したがって、麹チーズは洋食だけでなく和食とも相性が良い。実際に、有名寿司割烹の料理人も惚れこみ、「うちにあるどんな食材にも合う」と高い評価を受けた。
麹チーズは一般的なチーズとして楽しむだけでなく、日本酒のおつまみや、炊き立ての白米にのせて食べるだけでも満足感のある一品になる。「まさに、日本ならではのチーズが誕生したと考えます。これは日本人だけでなく、増加するインバウンド向けにも活用できるでしょう。『日本でしか味わえない』が強みとなり、食文化に関心の高い人々に歓迎されるはずです。もちろん、パスタやグラタンなどにも活用でき、一般的なチーズと同様においしく楽しめます」と、自らもその味に魅了されている村田氏は語ってくれた。
土地ごとの味わいの違いを楽しむ、新たな展開も
現在は、宮城県にある一般法人蔵王酪農センターでのみつくられている麹チーズだが、将来的には製造地域がさらに広がると予測されている。これは、元々農林水産省のプロジェクトとして始まったため、チーズを生産する全国の酪農家に製造ノウハウを伝え、麹菌の株を提供するという趣旨があるからだ。
「全国に広まれば、地域ごとに異なる牛乳や酒粕が使用されることになります。それが各地のオリジナリティとなり、食べ比べを楽しむことができる」と村田氏は述べた。また、チーズという枠組みの中で、青カビや白カビといった既存のチーズジャンルに加え、「麹菌」という新たな分類が誕生する可能性も十分にある。生産側にとっては、麹チーズは比較的早く発酵・熟成されるため、製造スピードが向上するというメリットもあった。
株式会社HBでは、今後は麹チーズのPR活動にさらに力を入れて知名度を向上させ、消費者の選択肢の一つとして数えられるまでに成長させることを目標としている。そのために、新たなレシピの開発やレシピコンテストの開催、専門家とのコラボレーションなど、多様なプロモーション活動が計画されている。
「チーズ好きを魅了する存在としての地位を確立するために、まずは知ってもらい、味わってもらうことが重要。それが実現できれば、ポピュラリティーを得られるはずです」と村田氏は語る。この構想は、近い将来に実現する可能性が高いと期待されている。
■麹チーズ公式オンラインショップ
https://koji-cheese.com/