現在、言葉遊び絵本はたくさん出版されております。主にだじゃれを扱ったものが多いように感じますが…。そんななか、大人が(やられた!)と舌打ちしたくなるほど、みごとな言葉遊びが展開する大人絵本がございます。絵本とはいえ、ほぼ、大人向けと言っていいほどのレベルの高さでございます。
ただ、昨今のお子様方は学習塾等でかなりハイレベルな教育を受けられているので、そういうお子様方にはとても興味深い内容になっているのかと…。一体どういう絵本なのか?
こちら『ぜつぼうの濁点』(作:原田宗典 絵:柚木沙弥郎)でございます。
タイトルからして大人向きでございます。ただ、大人にはかなりワクワクするタイトルではないかと…。はじめに言っておきますが、絶望はさせません!「なるほど!」「そうくるか…」と思わせてくれる絵本でございます。
主人公は、「ぜつぼう」につかえる“濁点”でございます。絵本の世界では、「うどん」「ケチャツプ」「割りばし」など様々なものが主人公になっておりますが、もやは、モノでもない“濁点”でございます。
ストーリーはと言いますと、まず冒頭「昔むかし或るところに言葉の世界がありまして、その真ん中に穏やかなひらがなの国がありました」と始まります。濁点は、自分のせいで“ぜつぼうは”は絶望しているのだと察し、新たな主人探しの旅に出ます。つまり、自分が去ることで「ぜつぼう」を「せつぼう」にしようと考えたわけでございます。そして最後に、新しいご主人に出会えるのか?はたまた違った結末がまっているのか…。という物語でございます。
ちなみに、文を担当されているのは、小説や軽妙な文体のエッセイで人気の原田宗典様。『十七歳だった!』『スメル男』、最新作の『メメント・モリ』(2015年)などの作品でも有名。
最近では、『楽園のカンヴァス』『本日は、お日柄もよく』などの著作を持つ人気小説家、原田マハ様のお兄様としても有名でございます。
今回の『ぜつぼうの濁点』も、実は1999年に幻冬舎から出版された原田様の短編集『ゆめうつつ草紙』に掲載されている作品のひとつでございます。そちらを原田様が加筆修正され、柚木沙弥郎様が原画を描きおろし、2006年に出版されたのが絵本の「ぜつぼうの濁点」でございます。
ですので、大人向きというのは当たり前と言えば当たり前なのでございます。短編集の方も読んでみましたが、内容的にはほぼ絵本と変わりありません。
先に、短編集の方を読んでから絵本を読むのもおすすめかもしれません。
なぜなら、物語に登場するのは“ひらがな”ばかり。絵本の絵を担当された柚木沙弥郎様が、一体どのように絵で表現しているのか?こちらの目線で楽しむのも、絵本ならではの楽しみ方ではないでしょうか…。
言葉遊びが好きな方は、是非是非の一冊でございます。(文:N田N昌)