花沢健吾の人気漫画を原作とした和製ゾンビ映画『アイアムアヒーロー』が、日本公開を前にスペインの【シッチェス・カタロニア国際映画祭】でコンペティション部門の観客賞と最優秀特殊効果賞を、ポルトガルの【ポルト国際映画祭】でもコンペティション部門の観客賞とオリエンタルエキスプレス特別賞を受賞し、国際的な注目を集めています。
「感動=名作」とは限らない
とはいえ、そもそもそんな映画祭知らないとか、ホラー映画が賞を取るなんてことあるの?などと思われる方もいらっしゃるかもしれません。賞を取るのは“感動的なヒューマンドラマ”そんな思い込みがあったとしたら、あなたの視野は大変狭い。
アカデミー賞のような世界的に知名度の高い映画賞は確かに“感動的なヒューマンドラマ”が受賞しがちな印象がありますが、読者のみなさん自身のベスト映画、人生に影響を与えた映画を数本挙げてみてください。必ずしも“感動的なヒューマンドラマ”だけないでしょ?徹底したエンタメ系もあったりするはず!
心に残る名作映画は、感動的なヒューマンドラマに限った話じゃないのです。
世界三大ファンタスティック映画祭
『アイアムアヒーロー』が高い評価を得た【シッチェス・カタロニア国際映画祭】や【ポルト国際映画祭】は、そうしたエンタメ系の中でも、SF・ホラー・ファンタジーといったエンタメ系ジャンル映画に焦点をあてた映画祭です。
この2つにベルギーの【ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭】(2016年は3月29日~4月10日開催予定)を加えて、“世界三大ファンタスティック映画祭”と総称されることもあります。
『アイアムアヒーロー』は、【ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭】にも参加予定で、ここで受賞すれば世界三大ファンタステック映画祭をせいすることになり注目されているわけです。
ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭 公式HP http://www.bifff.net/
日本からは他にも中田秀夫監督の『劇場霊』や園子温監督の『みんな!エスパーだよ!』・『リアル鬼ごっこ』。羽住英一郎監督の『暗殺教室』などが参加。『リアル鬼ごっこ』はカナダで開催された【ファンタジア国際映画祭】で作品賞・最優秀女優賞(トリンドル玲奈)などをすでに受賞しています。
ちなみに【ポルト国際映画祭】では2014年にSABU監督の『Miss ZOMBIE』が最優秀作品賞を受賞。ここ最近、日本のゾンビ映画が立て続けに外国で評価されています。
新しいものは常に傍流から生まれる
こうした“ジャンルもの映画祭”の何がいいかというと、繰り返しますが「感動的なヒューマンドラマ」ではなく、とにかく“面白い映画”を見つけ出してくれることと、未来の大監督を発掘する能力に長けているというところではないでしょうか。
例えば、1973年から1993年までフランスで開催されていた【アボリアッツ・ファンタスティック映画祭】の第1回グランプリはあのスティーヴン・スピルバーグの『激突!』です。
その後もブライアン・デ・パルマの『キャリー』や、この前のアカデミー賞でシリーズ最新作が最多部門受賞となった『マッドマックス』の第2作、さらにはジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』等々、もはや現在の巨匠レベルの監督陣の出世作が目白押し。
デヴィッド・リンチに至っては『エレファント・マン』と『ブルーベルベット』の2作品がグランプリを受賞。いずれも当時はほぼ無名の監督たちであり、いかに目利きの映画祭だったかがわかるというものです!
残念ながら現在は、フランス国内作品のみの映画祭となってしまいましたが、映画ファンのなかでは伝説の“ジャンルもの映画祭”です。
一方日本では【ゆうばりファンタスティック映画祭】が毎年開催され、北海道にもかかわらず全国、全世界から若手監督が多数集結しています。
今年のグランプリ作品、小林勇貴監督の『孤高の遠吠』は、実際に起こった暴力事件を、なんとホンモノの不良を俳優に起用した、実に冒険的な作品でした。
あらゆる分野がそうであるように、映画もまた、知名度の高いところから見えるのは評価の定まったものが大半ですが、新しいものは常に傍流から生まれるのです。