
多忙な医療現場を「守る」という使命を掲げ、支え続ける社労士がいる。医師に寄り添い、トラブルを未然に防ぐことで現場の安心を築く―。それが、社会保険労務士法人レクシード代表の鈴木教大氏だ。
鈴木氏は、労務管理を「対処」ではなく「予防」の視点で捉え、問題が起こる前に芽を摘む支援を続けてきた。その背景は、自身の原体験にある。実家の会社に後継者として入社するも、32歳で退職。家族を養う中での無職という決断。その苦しい日々が、いまの揺るぎない覚悟につながっている。
守れなかった32歳の決断
「変わらなければ、会社は続かない」。これは、私自身の原体験から生まれた痛切な実感です。
実家が経営していたのは、地元・栃木県で創業65年を数える企業でした。幼い頃から「いずれ自分が継ぐものだ」と疑いもしなかった未来は、32歳の時に突如として断たれます。経営方針を巡って父と衝突し、会社を退職。32歳で無職となりました。
当時、妻の身には次男が宿り、そばには幼い長男もいました。不安に押しつぶされそうな日々の中で、コンビニでジュースを1本買うことさえ躊躇する。当たり前だと思っていた生活のありがたさを、身をもって知りました。それでも、「今飛び出さなければ、取り返しのつかないことになる」という確信だけが、私を突き動かしていました。
退職後、資格取得を目指したのは、かつて実家の組織を支えていた社労士の姿を思い出したからです。働きながら資格を取得したものの、そこで直面したのは「環境」の壁でした。旧態依然とした風土の中で個人だけがどれほど変わろうとしても、組織そのものの在り方が変わらなければ限界がある。人は環境に大きく左右され、そしてその環境は、守ろうとしなければ容易に崩れてしまうものだと痛感したのです。
こうした経験があるからこそ、現在の私は労務管理を「対処」ではなく「予防」の視点で捉えています。問題が起きてから動くのではなく、起きる前に芽を摘む。働く人が安心して力を発揮できる土台をつくる。
あの無職だった時間の葛藤も、組織を失った喪失感も、すべてが今につながっています。組織は、異変に気づいたときにはすでに崩壊が始まっているものです。だからこそ私は、「崩れる前に守る仕事」を選びました。

「経営」を学ばぬまま始まる医療現場
知識がほとんどない状態で経営をスタートせざるを得ない人たちがいます。それが、クリニックを開業する医師の方々です。
長年、勤務医として医師の腕を磨いてきた。しかし、独立にあたって経営を体系的に学ぶ機会は、決して多くありません。そのまま開業を迎えれば、院内では労務に関わるさまざまな問題が起こります。クリニックは大企業のような組織ではありません。少人数ゆえに、一つの人間関係のほころびが、組織全体へと深刻な影響を及ぼすのです。
私が医療業界に特化した社労士として現場を支えるようになったのは、妻が看護師だったことがきっかけでした。医療現場の内情を知るにつれ、その特殊性を痛感。クリニックは女性比率が高く、人間関係は繊細です。例えば、規律を軽視する職員に注意しただけで、逆に「パワハラだ」と主張されることさえあります。労務トラブルに心を削られ、医師が本業である診療に集中できなくなるケースは少なくありません。
医師は本来、医療に専念すべき存在です。だからこそ私は、先生方に寄り添う存在でありたい。問題が起きてから対処するのではなく、未然に防ぐことが医療現場の安定を守ることにつながると信じています。
私自身、かつて組織の中で苦しんだ経験があります。だからこそ、制度の構築だけでなく、経営者が抱える孤独にも真摯に向き合える。医療を守るために、まずは医療を支える人を守る。それが私の使命です。
医療現場の組織が揺らげば、その影響は地域医療の根幹、ひいては人々の命にまで及びます。だからこそ、私は「予防」の労務管理に妥協しません。

医療の安定を守ることは、地域社会を守ること
開業は、夢の実現であると同時に、人生をかけた大きな「賭け」でもあります。
独立する医師の多くは、30代から40代にかけての働き盛り。長い研さんの日々を経て、ようやく「自分の城」を持ちます。しかし、いかに医療技術を極めていても、経営はゼロからのスタートです。人を雇うことも、労務を整えることも、数字を追うことも初めて。さらに、初期投資は億単位にのぼり、借入金返済の重圧がのしかかります。その極限状態の中で院内トラブルが起これば、心が削られてしまうのも無理はありません。
かつての厳しい現場経験に基づいた強いリーダーシップが、時には不本意な誤解を招くこともあります。スタッフとの面談における何気ない一言が、パワハラと受け取られてしまう。私はそうした場に同席し、アドバイザーとしてその場で軌道修正を促します。社労士は直接の交渉代理こそできませんが、問題を未然に防ぐ「防波堤」となることで、組織の崩壊を食い止められると考えています。
人材確保が困難な現代において、退職の連鎖は閉院のリスクに直結します。クリニックが一つ閉じれば、不利益を被るのは患者様です。地域医療は静かに、しかし確実に衰退していきます。
私は、かつて実家の会社を守れなかった過去があります。だからこそ、今は「守る側」に立ちたい。医療現場を支えることは、地域を守ること。そしてそれは、社会の基盤を守ることだと本気で信じています。

【取材協力】
社会保険労務士法人レクシード
https://www.rexseed.jp/
代表 鈴木教大
大学卒業後、小売業を経て実家の企業に3代目社長候補として入社。
経営に携わる中で社労士を志し、28歳で資格を取得する。
32歳で退職し、行政機関での実務経験を積んだ後、35歳で社会保険労務士法人レクシードを設立。
現在は医療業界に特化し、労働トラブルを未然に防ぐ「予防労務」を展開。
経営経験を持つ専門家として医師に寄り添い、地域医療の発展に貢献している。






