業界のパイオニアが見据える「顔認証」技術の可能性と未来

2022/03/10
佐藤 勇馬

近年、安心・安全な社会の実現やセキュリティ意識の高まりによって「顔認証」技術への注目度が急激に上がっています。AI顔認証ソリューション「FaceMe」をはじめとした顔認証技術のパイオニアである、サイバーリンク株式会社の萩原英知氏に顔認証業界の2022年の現状や今後の展望などについてお話を聴きました。

-顔認証技術とはどんなものなのでしょうか?

萩原氏:顔認証は、顔の特徴点を抽出して、事前に登録された特徴点データと照合する生体認証技術です。このテクノロジーは、エッジデバイスからクラウドシステムでの使用など、規模や用途にあわせて活用できるように最適化されています。今日、世界中の多くの人々が日常的に顔認証技術を利用しています。スマートフォンのロック解除は最も普及している用途の一つですが、顔認証の用途は他にもたくさんあり、すでに広く普及しています。

-具体的にはどんな分野でどのように活用されているのでしょうか?

萩原氏:研究施設、病院、工場、倉庫、あるいは金融や保険分野においては、厳格な運用管理を必要とする機器や機械が多数存在します。物理的なキーや運用台帳、キーカードやコンピューターを使用した管理などの従来の制御システムは、有効性や信頼性の面で必ずしも完全ではありませんでした。そのような機器に顔認証によるアクセス制御を組み込むことで、顔認証による非接触で正確なログインと、詳細な使用記録が可能となります。

また、機械の不正使用の試行、許可された時間以外の操作、安全基準により制限されている時間を超えた操作などの問題が発生した場合に、セキュリティ担当者にアラートを送信することができるようになります。

-他にはどのようなものが?

萩原氏:例えば、公的サービスや金融サービスにおける本人確認 (Know Your Customer=KYC)では、通常は運転免許証やパスポートなどの公的機関が発行した証明書を確認および検証することで顧客の身元を確認します。また、マネーロンダリングなどを防ぐために、様々な文書と相互参照することが求められる場合もあります。顔認証を使用する事によって、従来のKYCをより堅牢で効率的なものにすることが可能となります。

また、KYCのプロセス全体をデジタル化し、PCやスマートフォンを使用してどこからでも本人確認ができるようにすることによって、いつでもサービスの提供が可能となり、オンラインでのサービスの可能性が広がります。顔認証を使用したKYCは「eKYC」と呼ばれ、実際の顧客の顔と身分証明書の顔写真を照合することで、認証作業をリモートで実現できます。使用例としては、銀行口座や投資口座のスムーズな開設やATMでのカードレス取引などが挙げられます。

-セキュリティの分野ではどうでしょうか?

萩原氏:顔認証を活用して、ライブ映像を事前に特徴点が登録されたデータベースと照合することによって、施設の監視を大きく改善することができます。データベースに登録のない人物や、過去にブラックリスト登録された人物が施設への侵入を試みた場合、即座にセキュリティ担当者へアラートを送信することができます。例としては、立ち入り禁止区域への不審者の侵入や警告を担当者に通知したり、医療、福祉施設などにおいて、外部からの登録のない人物来訪を検知したり、許可のない外出を防止するなど、従業員、サービス利用者の負担軽減につなげることができます。

 住宅における顔認証とスマートセキュリティの普及は、近年における最も素晴らしい革新の一つです。このテクノロジーによって、プライバシーを保護しながら、家に暮らす家族や資産を保護することができます。顔認証を備えたスマートホームセキュリティシステムは、家族が外出したり、また帰宅したりした際に、自動的に警備を開始または解除することができます。許可された訪問者ではない人物がアクセスを試みようとした場合は、管理者や居住者に即座に警告することができます。

-顔認証はセキュリティ以外の用途にも活用できるのでしょうか?

萩原:顔認証の用途は非常に幅広く、スマートリテールや顧客体験のパーソナライズといった分野でも大きな役割を果たしています。店舗に設置された端末により、あらかじめ登録されたVIP顧客を認識し、入店時にスタッフへ必要な対応を行うように促すことができます。また、顔認証をPOSシステムに追加することにより、顔認証を活用した非接触での決済を安全に行ったりすることができます。

 宿泊施設では、スタッフに通知することで迅速に適切なサービスを提供したり、ゲストの好みに基づいて部屋をセッティングしたり、ロボットを組み合わせることでゲストの部屋への道順を案内することなども可能です。飲食店の場合、登録されたリピート顧客をVIPとして認識して、追加の特典やサービスを提供することができます。

-感染症対策においてはどうでしょうか?

萩原:顔認証はマスク着用状態の確認などで、感染症対策に貢献することができます。最新の顔認証技術では、カメラを使用してその人物がマスクを着用しているかどうか、および着用状態が適切かを検出できます。サーマルカメラと併用すれば、体表面温度のスクリーニングを実施することも可能となり、施設に入場する人々の健康状態をチェックして安全な施設運営を行うことができます。

 特にイベントホールや商業施設のような不特定多数の人々が利用する場所において、施設の運営に携わる人々の健康と安全をいかに守るかという課題が生じています。この課題をクリアするために、顔認証技術は重要な役割を果たしています。入口やホールに設置されたカメラにより、チケット購入者と来場者の照合や、マスク着用状態の確認を同時に速やかに行い、リスクの高い人物を検出して、必要な措置を講じることができるよう担当者にアラートを送信できます。

-昨今はさまざまな物理的接触を非接触化する製品・サービスに注目が集まっています。

特にオフィスでの出退勤管理・入退出管理におけるタッチレス化による、ドアやスイッチの非接触化やマスクをしたままで、認証することへの需要が高まっています。

さらには、イベントでの入退場管理やホテルのチェックインなどにおいて、人と人との接触機会を減少させるために顔認証を活用するニーズも増えております。

-顔認証技術の今後についてお聞かせください。

萩原:顔認証の用途は無限大です。これまで紹介したもの以外にも、テスト中でまだ普及していない、あるいは世間では全く知られていない多くのエキサイティングな用途が存在します。ハードウェアの技術革新によって、より高性能で、より安価なAI対応製品が市場に提供され続ける限り、顔認証技術の新たな用途が生まれ続けていくことでしょう。私たちが注目している用途のいくつかをご紹介します。

いま我々が注目している用途は、従来からマスクに加えヘルメット、もしくは帽子をかぶっており、さらにゴーグルや眼鏡も着用しているような環境下において、本人確認が必要なケースです。 少し具体的にお話しすると、医療機関等において特定の担当者、もしくは資格を有する人しか扱えない機材などの不正使用防止のために顔認証によって管理するなどです。 前述のようなマスク、ヘルメット、ゴーグルなどを着用した状態での顔認証は技術的に非常に難しいのですが、医療現場では医療用手袋なども着用しておりそれらを着脱することは、別のリスクを高めることに繋がります。よって、さまざまな認証技術の中で、顔認証で実現すべき環境・用途であると考えております。

もちろん、類似するケースとして工場や建設現場などでも本人確認が求められるケースにおいてご活用いただけると考えております。

-最後にメッセージをお願いします。

今回ご紹介した内容は、顔認証の可能性のほんの一部にすぎません。顔認証はこれから進歩・進化していく技術です。私たちは革新を続け、世界トップレベルの「FaceMe」ソリューションをより多くのユーザーに提供してまいります。

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佐藤 勇馬
この記事を書いた人

佐藤 勇馬

新宿・大久保在住のフリーライター。個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にスカウトされて以来、芸能、事件、ネットの話題、サブカル、漫画、プロレスなど幅広い分野で記事や書籍を執筆。著書に「ケータイ廃人」(データハウス)「新潟あるある」(TOブックス)など。 Twitter:ローリングクレイドル

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