お祝いの席を彩る刺身の主役といえば、マグロやタイといった“高級魚”がほとんど。サンマ、アジ、イワシなどの“大衆魚”は脇役になりがちだ。傷みやすく、生食が敬遠されがちなサバにいたっては、一部地域を除いて、刺身で食べること自体が難しい。だが、最近、こうしたサバの地位が少しずつ変わりつつあるのをご存じだろうか。3月8日のサバの日を前に、最近の“サバ事情”を調べてみた。
「サバ=大衆魚」のイメージっていつから?
値段が安く、手に入りやすい庶民向けの魚は「大衆魚」と呼ばれ、昔からサバはその代表格だった。大量に獲れるも、傷みやすく、鮮度の良し悪しがわかりづらいことから、江戸時代には「サバの生き腐れ」なんていう残念な言葉も生まれた。1831年に刊行された『魚鑑』にも『鯖は四時常にあり、春より秋のすへまで盛(さかり)なり』という記述があることから、いかにサバが日本人になじみ深い魚だったかがわかる。
脇役だったサバがまさかの高級魚に
食卓になじみ深い大衆魚のサバだったが、現代になると、その扱いにも変化が出てきた。一部の地域でサバのブランド化が始まったからだ。1匹あたり数百円前後のサバをはるかに上回る“高級サバ”が出始め、脂がのったブランドサバは高級料亭などへ卸されるように。サバにも“格差”が生じ、それと同時に高級魚としての雰囲気をまとい始めた。
【ブランドサバの代表例】
「金華サバ」――宮城県金華山沖で獲れて石巻漁港で揚げられたマサバ
「関サバ」―――大分県の瀬戸内海・豊後水道付近で獲れて佐賀関で揚げられたマサバ
「松輪サバ」――神奈川県相模湾沖で獲れて松葉漁港で揚げられたマサバ
「食あたり」のイメージあるも、人気は陰らない
大衆魚と高級魚、両方の顔を持つようになったサバだが、唯一の欠点「傷みやすさ」が足を引っ張ることもあった。数年前には寄生虫アニサキスが話題になり、サバに多く存在することがわかると、傷みやすさもあってか、食あたりしやすい魚としてメディアに登場することも少なくなかった。実際、産地から遠方のお店では“サバにあたる”のを避けるためか、料理は「しめサバ」がスタンダードだ。
しかし、それでもサバ人気に陰りがないのは、すごいところだ。マルハニチロが2016年に「ふだんよく食べる魚」というアンケートを取ったところ、1位「サケ」、2位「サバ」と、サバが上位に食い込んだ。20~59歳の男女1000人に聞いた結果ということからもわかるように、サバは今でも世代を問わず支持されているのだ。
箱入り娘の『お嬢サバ』登場で、生食も可能に?
2017年には鳥取県の「JR西日本鳥取県岩美町陸上養殖センター」でサバの養殖がスタートした。地下海水をろ過した水を使用することで、アニサキスをはじめとした寄生虫がつきにくく、うまくいけば、サバが生食できるようになるという。
刺身で食べてみたいサバ好きからすれば、なんともありがたい話だ。稚魚から大切に育てているため、“箱入り娘”にかけて『お嬢サバ』という名称で、じつにユーモアがある。これからは「サバ=刺身」という日がくるのもそう遠くはないといえる。
サバの未来は明るい
安くて大量に出回る庶民の魚。「サバの生き腐れ」という言葉からもわかるとおり、サバは必ずしも良い扱いを受けてきたとは言い難い。ただ、2016年に3月8日が「サバの日」に制定されたり、一部でブランド化、養殖化が進んできたりと、そのイメージは確実に変わりつつある。一時期のサンマやアジのように、数が減って高騰してしまう事態はさけてほしいが、それでも庶民の食卓になじみ深い魚であってほしい。