三重県・松阪市にある松本クリニック。巨大なギターをモチーフにした、およそ病院とは思えない楽しげな外観で知られ、建物だけでなく治療方針もユニークです。何かと制限ばかりで人生の喜びの多くが失われていくようなイメージがある生活習慣病治療に革命を起こし、患者たちの暮らしを生き生きとしたものに変えているのです。
今回は、院長を務める松本和隆さんにインタビュー。糖尿病をはじめとした生活習慣病の専門医としての工夫や患者たちへの愛情、治療の最新事情などについて貴重なお話を聴かせていただきました。
松本クリニック院長・松本和隆さんインタビュー
糖尿病をはじめとする生活習慣病というと、食事療法やインスリン注射などで日々の暮らしに大きな制限がかかるイメージがあります。あれもダメ、これもダメとなると患者さんの気持ちがふさぎ込んでいきそうです。
「当院では、抜くところは抜いて、やるところはやるという方針を提案しています。生活習慣病にかかっても人生は続きます。その人生をいかに豊かにしていくか。そういう治療をしていきたいと思っています。他院から来たある患者さんは、お孫さんの結婚式があるけど披露宴で食事をすると血糖値が上がってしまうから出席しないと言っていました。その患者さんにも、せっかくのお孫さんの結婚式なんだから、楽しむところは楽しんで、家に帰ってからしっかり制限しましょう、と伝えました」
治療の工夫のひとつとして、患者の個人差に配慮したテーラーメイド治療を取り入れておられるそうですね。
「糖尿病を専門にしていないクリニックだと、ただ食事を制限しなさい、運動しなさいと指示して終わりになることが珍しくない。しかし、患者さんはそう言われても具体的な方法が分かりません。当クリニックでは、糖尿病の専門医である私のほか、食事のプロとして管理栄養士、運動のプロとして理学療法士が常勤しています。いつ来院していただいても、具体的な食事・運動の指導ができます。患者さんにはお年寄りもいれば働き盛りの方、主婦、若い方もいますから、一人ひとりに合わせてきめ細かい診察、指導をしなければいけません」
生活習慣病の治療は不安になりがちですから、それは心強いです。
「診察室の横に管理栄養士、二階には理学療法士が控えていて、情報は早くきめ細かくスタッフに共有されます。また、二階にはジムとキッチンがあり、運動指導や食事指導に活用しています」
「チーム・フラワーヒル」という患者会が定期開催され、患者同士の交流や勉強会を行われているとか。
「糖尿病教室や運動療法教室、お茶会などを定期的に開催しています。そこでプロから適切な指導が受けられますし、患者さん同士の交流の場にもなっています。患者さんそれぞれのアイディアが共有でき、医師から正しい知識に基づいたアドバイスも得られる。医師と患者の距離が近いクリニックならではのイベントだと思っています」
もはや糖尿病は「国民病」ともなっていますが、その最新事情についてお聞かせください。
「糖尿病治療の要は早期発見です。ある程度、血糖値が上がらないと治療しないという医療機関もありますが、それではダメです。早期発見が第一。食事、運動なども早めに治療に導入していく。当クリニックでは、まだ投薬の対象にならないような、普段よりも少し血糖が上がっただけでも治療を実施しています。ですから『検査だけでも』というくらいの気軽さでクリニックを活用してほしいです」
生活習慣病を専門とする医師は、地方に極めて少ないという現状があります。特に、松阪市にはほとんどいないに等しいといわれています。こうした地域の医療事情について考えをお聞かせください。
「糖尿病治療に関し、当クリニックは大病院とさほど変わらない質を担保しているという自負はあります。生活習慣病治療は地味ですが、これからの高齢化社会を考えると絶対に必要な医療です。医学生には当院のようなところへも研修に来て、こうした医療の形もあるんだと知ってほしいですね。それが三重、松阪市の医療の未来を支えるはずだと考えています」
今後のビジョンをお聞かせください。
「お笑い番組を見ると血糖値が下がる、という研究があるんです。治療も大切ですが、人生を楽しむことも大事だということです。私はロックが趣味でギターを弾きますが、私自身が率先して人生を楽しむ姿を患者さんに見てもらい、楽しむことの大切さを伝えていきたいと思っています」
松本氏は他院の患者会などを通して横のつながりを広げ、地域全体のレベルアップを図っていくなど、三重・松阪の糖尿病治療のリーダーシップとって業界に革命を起こそうと奮闘しています。生活習慣病治療の最前線で「人生を楽しむことの大切さ」を説く松本氏への注目度は今後ますます高まっていきそうです。