海水浴場やキャンプ地の川沿いで人が流されてしまったというニュースをよく見かける。「溺れている人を見たら助けを呼びに行く」「服を着たまま流されたら服を脱ぐ」という非常時のハウツーが頭に浮かぶが、はたしてそれが正しいかどうかは、よくわからない。
緊急時はとっさの判断が命運を分けるが、いったいどの行動が正解なのか。これから海に行く人のためにも、自分のためにも、水難事故の基本知識を調べてみた。
溺れた時はバシャバシャ騒がない
まず水難事故で誤解されがちなことの一つが、溺れ方だろう。おそらく、大半の人は「溺れる=バシャバシャ騒ぐ」と考えがちだが、実際は音を立てることなく静かに沈んでしまうという。これは専門用語で「本能的溺水反応」というようだ。乳幼児の入浴中、親がほんの少し目を離したとき、静かに浴槽に沈んでいて焦ったという話を聞いたことがあるが、これと同じようなことが海水浴場やプールで起きると思ったほうがいい。
本当に溺れたとき「助けて」とは叫べない
「本能的溺水反応」について提言したフセンセスコ・A・ピア博士によると、ごくまれな場合を除き、溺れかけている人は助けを呼ぶことができないという。なぜなら呼吸器官は呼吸を最優先するようになっていて、溺れたときに声を出そうとする行為が満足にできないからだ。
つまり、子どもはもちろん、大人でさえも、満足に助けを呼ぶことができず、沈んでしまう可能性があるという。ちなみに溺れそうなときの体はほぼ垂直状態。足は効果的なキックができないため、人は20秒~1分ほどで沈んでしまうという。
浮くものは迷わず投げろ
1分ほどで沈んでしまうのであれば、人を探している暇はない。もし、溺水者を見つけたら、まっさきにすべきは身の回りにある浮力のあるものを投げることだろう。空のペットボトル、スニーカー、ランドセル……。発泡スチロールなんて最適だ。ペットボトルに軽く水を入れて投げると飛距離も出やすい。
浮くものに捕まることができれば、それだけ顔を水面に出しやすくなるので、呼吸もしやすいという。助けがくるまでの時間稼ぎができるのだ。助けに飛び込んだ人が巻き沿いになってしまうケースがあるが、慌てて飛び込むよりは、まず身の回りにあるものを投げて、自力で浮かんでもらう手立てを考えたほうがいいようだ。
服を着たまま脱がないで浮くこと
服を着たまま誤って水に落ちてしまうこともある。着衣水泳の経験がある人ならわかるだろうが、水分を含んだ衣類は重い。体が沈んでしまうような感覚を抱くだろう。だが、それでも服を脱ぐのは避けたほうがいいそうだ。なぜなら服自体が空気を含んでいて浮くことがあるからだ。
服を脱がなければ、体温低下を防いだり、岩や木の枝で体が傷つくこともない。濁流などに流されていない限り、浮力のあるものをつかんで浮きながら助けを待つのが賢明な判断なのかもしれない。
冷静な判断こそが命を救う
それでも、いざ溺れている人を見つけると焦ってしまうだろう。わが子や友人、恋人が目の前で溺れているときに「冷静になれ!」と言ったところで難しい。流れの早い川で流されてしまったら、ここで挙げた対応も上手くいかない場合がある。しかし、だからこそ、万一のことを想像して一瞬の判断を誤らないようにしなければいけない。
流された場合はロープのような長いものがあるといい。ホースだったり、テントを組み立てるパイプだったり、投げて掴んでもらえるものが理想だろう。慌てて時間をロスしないよう、冷静な判断をしたいものだ。