笑いとエロが正論よりも共感できる場合がある。『SPA!』金泉編集長インタビュー

2016/09/21
マガジンサミット編集部

「企画のアイディアは、お酒の席での会話や、街を歩くときに浮かびます。街の風景が、以前見たときと、どう変わったか? ときには定点観測しながら同じルートを歩く。特に、昔ながらの商店街の生態系が残っている地域は楽しいですよ。昔と比べると、マッサージ店が大幅に増えていたりとか」

 

「それから、富裕層の住宅地を歩くのが好きなんですよ(笑)。そういう地域を歩く人達が押すベビーカーのブランドや、買い物とか観察すると面白い。周囲で見たり聞いたりした仕草や景観、噂話に企画のヒントがあると思っています」 

 

――  かかさずご覧になるTV番組などはありますか?

 

「今は、NHK朝の連続ドラマ『とと姉ちゃん』を毎朝楽しみにしています。このドラマには雑誌編集の基本がすべて詰まっていると言っても過言ではありません。たとえば、主人公である常子の学友“綾さん”が戦争未亡人になって新橋のカフェで働くことになった回では、綾さんが勤めるカフェを訪ねて帰ってきた常子に、花山編集長が「どんな服装か見てなかった?それも取材だろ!」と怒るシーンがあります。このように雑誌編集とは、日常でおきたことすべてが取材対象なんです」

 

―― 街やテレビのほか、WEBからも影響を受けますか?

 

「もちろん、WEBからも刺激をうけます。僕がプロピッカーとして参加しているというのもありますが、経済ニュースアプリの“ニューズピックス”は、キュレーションアプリであること、オリジナル編集記事があること、ソーシャルメディアであることを成立させたユニークな新しいメディアだと注目しています。ただ、アイフォンの販売台数も安定し、アプリブームもこれまでのようになんでも上手くいく世界ではなくなるでしょう。そんな状況を鑑みながら、この7月に日刊SPA!アプリのローンチをしました」

 

―― SPA!も激戦のアプリ業界に殴り込みですね! どのような体制で雑誌もアプリも作っているのでしょうか?

 

「現在、編集部は40人です。WEB・アプリ・書籍・雑誌と担当をはっきり分けず、プリントメディアもデジタルメディアも同じ編集者が担当しています。この規模を同一編集部で編集・運営しているのは珍しいようです。」

 

 

WEBと相性がいいのは“突然変異”から

―― SPA!を拝見していると、なんとなくTVの深夜番組的だと思う時があるのですが…

 

「TVっぽい視点やネタのつくり方を意識したことはないです。ただ、創刊当時のコピー“週刊誌の突然変異”にもあるように、既存の週刊誌的なことはしないという編集方針はあります。例えば『みうらじゅん×リリー・フランキーのグラビアン魂』は、お二人にグラビアアイドルの人選から、どのようなシチュエーションやアングルで撮影するといいかを徹底的に語ってもらい、その通りにグラビアに再現するという企画です。いわゆる週刊誌の裸(ヌードグラビア)にないサブカルチャー的な面白さがあります」

 

―― そういった視点から、週刊誌としてはWEBにも積極的だったのでしょうか?

 

「確かに他の雑誌よりは積極的なほうだと思います。1999年には雑誌宣伝用として『ウエブSPA!』が始まりました。当時はブログが普及する随分前でしたが、編集者の日記を載せるなどの企画がありました。しかし、よりスマホ時代に対応するサイトとして2011年に『日刊SPA!』を創刊しました。2013年には『女子SPA!』も創刊し、好調なときで日刊SPA!は約6000万PV/月、女子SPA!は約3000万PV/月となっています。」

 

※編集部の一角にある棚にずらりと並ぶバックナンバー

 

雑誌の未来とSPA!のこれから

―― 雑誌の未来とSPA!の未来を教えてください。

 

「次の世代には、良いカタチで引き継ぎをしたいと思っています。それは前任者の呪縛にしばられないカタチです。日本の出版ビジネスはレベルの高い印刷技術、流通システム、そして編集技術がある。反面、デジタル化などのイノベーションに大きく踏み切れず、コスト的にも構造的にもバランスをとっている状態です。私はこれをガソリン車からEVカーになる過渡期となっているハイブリットカーになぞらえて考えています。このハイブリットという移行期間に、いろいろなことに挑戦できる可能性があると思う。だから雑誌という今のカタチに依怙地になる必要はなく、良い意味でのマンネリズムを残しつつ、いろいろなことにトライしてほしいです」

 

―― 良い意味のマンネリズムとは…?

 

「例えば、ラーメンのトレンドは、年々進化していて新しい味やジャンルが出てくるとてもイノベーティブな外食産業だと思います。けれど、たまに昔ながらの中華そばが、むしょうに食べたくなるでしょ?そういう、安心して食べられる“マンネリ”的なモノを完全に失くしてはいけないと考えます。会社帰りに、500円ちょっとで発泡酒と週刊SPA!を買うとして。そういうときに、前衛的なものとか、圧倒的なものをどこまで読みたいと思うのか?を自問自答しています。もちろん、全部がマンネリした企画では滅んでしまいますよ。けれど、そのなかに親しみのある普遍性があると、安心して読むことができると考えます。あとは、正論より、笑いやエロの切り口で世相を覗くと、共感できる場合があるじゃないですか。“株で一発当てた人”というお題があったとして、そこに、株で儲けて、高級車や億ションを買いました……そんな部分だけを見せても、共感しづらいと思います。株で儲けても、カップ麺が一番旨いとか、お金はあるのに女のコにモテなくて実はキャバクラにハマっているなどの視点が必要だと思うんです」

 

―― 最後に、SPA!にキャッチコピーを付けるとしたら?

 

「週刊SPA!読者層は、酒もタバコも嗜み、物欲も性欲も出世欲もまだある。お金も欲しいし、女性にもモテたい。いわば昭和的価値観やダンディズムがまだ残っている40前後以上の男性層で、このような人たちを“ラストサムライ”と呼んでいます。そして…ラストサムライ以降の読者層は、後輩たちに託します。」

 

 

金泉編集長、ありがとうございました!

 

 

金泉俊輔 かないずみ しゅんすけ 

 

昭和47年。東京生まれ。

扶桑社入社販売部を経て、

平成13年から『週刊SPA!』編集部に配属。

同誌副編集長、編集長代理を経て、

平成25年4月より編集長。

現在はWEB版の『日刊SPA!』編集長も務める

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