田中正義投手5球団競合で沸いた今年のプロ野球ドラフト会議。そんな中、ちょっと珍しい経歴の選手が2人指名された。楽天6位指名の鶴田圭佑投手(帝京大)、巨人育成4位指名の坂本工宜投手(関西大学)。
この2人、硬式野球ではなく【準硬式野球】の出身である。ネットでは「準硬式って何?」という声が沢山聞かれた。確かに野球経験者でも準硬式球は馴染みがないかもしれない。
歴史は古い
そこで、ざっくりと準硬式野球について解説したい。準硬式ボールが誕生したのは意外に古く1949年(昭和24年)のこと。「握った感触が軟式で打球感が硬式」という、軟式と硬式の中間として作られた。
球の構造は、コルクの粉末と樹脂を適度に混ぜ合わせた芯に糸を巻き付け、表面を天然ゴムで覆い、その上から軟式ボールと同じゴムを外側に覆ったもの。これとほぼ同じ構造の芯を牛革で覆うと硬式ボールになるのだ。
随分昔だが、軟式だと思って金属バットで打ったら「コツーン!」と少し乾いた音がして打球が速かった。この時、準硬式球の存在を初めて知ったのだが、硬式の感覚で捉えたと思ったフライも急に失速。軟式の感覚でちょっと詰まったと思っても結構伸びる、という感じ。主観だけど、軟式しか経験のない人のほうが面白いと感じそう。
プロ野球選手も経験
ボールが開発されたのが1949年。その年、「全日本大学軟式野球連盟」が発足しているのだが、翌年の第2回選手権大会から準硬式ボールを使用している。現在は「全日本大学準硬式野球連盟」の名称で、全国約280の大学が加盟しており、登録者数は1万人程。日本の野球競技人口が約150万人と言われているので人数としては少数だが、近年は増えているとのこと。
盛んなのは主に大学と社会人。高校生にリーグなどは存在せず。中学では大阪の一部で古くから盛んで、準硬式野球出身のプロ野球出身者も多く、桑田真澄(巨人)、岡田彰布(阪神)、牛島和彦(中日)、香川伸行(南海)などが経験者。
準硬式野球出身のプロ野球選手
最も活躍したといえるのは、1999年同志社大学から西武ドラフト6位
青木勇人投手(西武・広島で11年間 通算9勝6敗1セーブ)
1987年法政大学から大洋ドラフト外入団
呉俊宏投手(実働2年 一軍10試合登板)。
2006年関西学院大学から大学・社会人ドラフト5位
山本歩投手(実働1年 5試合登板)
2009年群馬大学から巨人育成ドラフト5位
神田直輝投手(一軍登板なし)
早稲田大学準硬式野球部から王子製紙を経て、2009年広島ドラフト6位指名
川口盛外投手(一軍登板なし)。
__などがいる。
軟式野球出身も!
実は、今年軟式野球出身の投手が2人ドラフト指名されている。
ヤクルト6位菊沢竜佑(相双ソテック)、なんと28歳、軟式でMAX148キロ。
巨人育成3位山川和大(兵庫ブルーサンダーズ)は芦屋高校時代に軟式だった。山川のように高校で軟式野球、大学や社会人から硬式を握りプロになった選手は他にも数名いる。1991年ドラフト2位でロッテに入団し、セーブ王にも輝いた河本育之(新日鉄製鐵)は代表的な例。
軟式出身の大投手と言えば広島の大野豊。1976年出雲市信用銀行軟式野球部から広島にテスト入団、現役22年で148勝138セーブを記録する名投手に。
ソフトボールからも
2011年日本ハムドラフト7位指名の大嶋匠捕手は、中学から早稲田大学までソフトボールをやっていた異例の選手。今年12試合出場している。
準硬式、軟式出身のメリット
硬式ボールを使用してこなかった選手がプロの世界で通用するかはかなり未知数。実際、一軍で活躍する選手は少ない。しかし、スカウトの目にどこかキラリと光って映るからドラフト指名するわけだ。
指名されるのが投手ばかりなので、投手が通用するかの可能性として考えられるメリットがあるとすれば。
まず、目安となるのは「球速」。
硬式球に比べると直球の球速は準硬式で3~5キロ遅いとも言われる。もし145キロ投げられれば、硬式ならほぼ150キロという計算になる。
そして「肘と肩の消耗度」
準硬式・軟式ボールは、硬式と比べて若干重量が軽いため肩や肘の負担が軽く消耗が少ないとされている。肘の腱を移植するトミー・ジョン手術をすれば復帰まで約2年はかかってしまうのは痛い。広島の大野投手が、大きな怪我をせず現役22年も続けられたのは「長い間軟式だったこともあったはず」と後に語っている。
準硬式野球から晴れてプロ野球の世界へ進む(であろう)、楽天の鶴田投手と巨人の坂本投手。ほぼ経験がない硬式ボールへの対応はかなり厳しいはず。しかし彼らが活躍すればきっと準硬式野球の知名度も上がり、競技人口も増えるはず。ぜひ頑張って欲しい。