いよいよ新年度を迎える直前の3月30日に、ソフトウェア開発会社であるサイボウズ株式会社が、株主に向けたスペシャルトークセッション『株主のから騒ぎ』を行いました。
1997年に設立されたサイボウズ株式会社は、グループウェア「サイボウズ Office」シリーズなどビジネス向けWebサービスの開発、販売などを手掛けており、2006年に東証一部に。また代表取締役の青野慶久社長自らが育児休暇を取得したり、働き方改革にもいち早く取り組むなど、先進的な会社運営を行っていることで注目を浴びている企業であります。
この時期は、株式会社という立場ではとかく株主総会なども多く行われている時期。「株主総会」と聞くと、どちらかというと緊張感のある場所という認識をされている方もいるかもしれません。しかしサイボウズ株式会社の総会は、株主でなくても総会を観覧できるというユニークなもの。そういった趣向が見られるだけに、総会自体も何かステレオタイプなイメージとは違った雰囲気が想像できます。そしてその総会後、今回ご紹介するトークセッションは“株主との一体感を強めるという目的で、敢えて株主の方にひな壇に上がってもらい、サイボウズについて一緒に考えていきたい”という趣旨のもとで、今回初めて行われました。
株というものが一般の方にも広く広がった現在、単に儲けという目的だけを追求するのも面白いかもしれませんが、このイベントはその関係を一歩進め、会社と株主という関係を深くすることで、新たな価値観を見いだすことができる可能性もあるように感じられます。さて、今回の「から騒ぎ」の様子やいかに…
■笑いに包まれた、アットホームな雰囲気で行われた“ぶっちゃけ話”
イベントも開始の時間を迎え、いよいよスタート。ステージには7人の「から騒ぎ」を行う株主の方が来られました。そして司会として代表取締役の青野社長、山田理副社長が登壇。総会が終わったばかりでありますが、お二人はそんなことも感じさせないにこやかな表情でこの日は登壇されました。山田副社長は今回のこのイベントについての趣旨を説明、続けて「青野さんや僕には質問しないでください!」といきなりのジャブで、会場の笑いを誘います。かくして、イベントはアットホームな雰囲気の中開始しました。
7人の中にはまだ株主になったばかりという方の一方で、株主になってすでに18年、サイボウズの株価の推移を全部知っているというベテランの方まで様々。唯一この日登場した女性の方は、まだ株主になってそれほど年数は重ねていないものの、「株主でなくても総会が見学できる」という話を聞いて興味を持ち来場、その雰囲気に納得して株主になったそうです。ちなみに名古屋かからのご来場、遠路はるばる非常にご苦労様でありました。
一方、この日最も積極的だったのは、様々な銘柄の株に精通する“株好き”を自称する井村俊哉さん。一つ目の「株価を上げるにはどうしたらいい?」という議題を挙げられると、いきなり挙手し「青野さんがツイッターをやめればいい!」とコメント。それって…ZOZOTOWNの前澤友作社長のケースにあやかって、ということですな…これを挙げるというのは、なかなかテゴワイ株主です。
そんな中、例として昨年サイボウズの株価が一時急騰した際に青野社長が投稿されたツイートが紹介され、急騰の要因が分からなかったため、“対抗措置をとらなければ”と記載されていたことについて株主よりツッコミ、急騰という部分に「(急騰って)こんなもんじゃないでしょ?」との指摘や、「こんなこと書いちゃだめだよ!」と厳しい一言まで。思わず山田副社長も「総会は終わったはずなのに、総会よりやられているって、どういうこと!?」と悲鳴、会場は爆笑に包まれます。言葉じり自体はかなり厳しいツッコミばかりなのに、株主と会社の関係に微笑ましさすら感じられる空気が流れていきます。
一方で、登壇された方の中には「株主になったことで、ワクワクしている」と、意外に配当をそれほど気にしていないという、どちらかというと“会社を応援する”という素晴らしい株主の方も。どうしても株というと、儲けという部分に直結して考えがちではありますが、こういった形はある意味株式会社の健全で理想的な姿でもあります。さらに「基本的には本業をしっかりしてほしい」「日本はプラットフォーム開発が疎いという弱点がある。だからそういう開発に力を入れ、気軽に誰でも使えるものを作ってほしい」と会社の運営に対する非常に前向きな進言も聞かれました。
■“儲け”を超えた関係、その意義
そして二つ目の議題として「新しいカイシャの株主の役割」というテーマが挙げられると、井村さんが「それは我々株主も、働けということですか?」などとコメント、山田社長は「なんでわかったん!?オブラードに包んで言ったつもりやったのに…」などとおどけたコメント、またも笑いを呼びます。
ここでは、主に普段の生活の中、会社生活の中でサイボウズに触れ、それをいろんな人にアピールするという意見が多く挙がりました、中でもプライベートでウォーキングクラブを運営しているという方は、クラブの連絡に廉価版のサイボウズ製グループウェアを使用、クラブで共用することで宣伝に結びつくというケースなどが挙げられました。草の根的な例ではありますが、実はサイボウズ株式会社の社員は800人ほどである一方で、株主は現在約10,640人。その意味ではわずかな努力でも、これが浸透すれば会社にとっては大きな力となります。またそうした動きは、いずれ株主に還元される向きも見えてくるでしょう。
また、この日は観客席側の株主からも意見があり「実はサイボウズ株式会社がどんなものを作られているところなのかをよく知らない。だから総会などでPCを用意してもらい、デモなどを見せてもらいたい」というコメントも。企業が行っていることを、株主が知らないままお金を払っているというのは、衝撃的でもあります。でもよく考えると、単に儲け云々という面だけを追求していく関係になると、このような状態になる可能性は十分あります。その意味ではこういった意見が聞かれる場が設けられたということには、大きな意味があるようにも感じられます。
そして最後には、7人の株主の中から「サイボウズ公認 株主アンバサダー」を発表。それはやはりジョークから本気の意見まで、様々な意見を出された井村さんでした。いろんな銘柄と比較した結果、サイボウズ株式会社の良さに惚れ、会社に向けての一言を求められると「好き」と本当に一言で返した(笑)、井村さん。
この日登壇された株主の方々は、もちろん彼に負けずとも劣らない“サイボウズ愛”に包まれている方ばかりで「今期で22期ですが、100年、200年続く会社となってほしい」と、エールともとられる言葉を贈る方も。こういった関係は、非常にユニークな社風を持つこの会社ならではともいえそうです。株主と企業という関係は、どうしても損得という関係で納まりがちではありますが、一歩目線を変えるとまた違った面の魅力も見え、損得を超えた面白い関係を感じることがあるかもしれません。そんな可能性を感じさせたひと時でした。