フィンランドの首都ヘルシンキ市が、市の魅力を伝えるキャンペーン「The Helsinki Curious」を開始。そのうち、ヘルシンキ市のエッセンスを込めたアーティスト3名の作品が、ヘルシンキ市をはじめ、複数都市のビルボードに展示がされ、日本では原宿で作品のポスターが公開されました。果たして、どんな作品なのでしょうか? その作品を手がけた一人である日本人アーティスト中村隆さんにインタビューし、作品に込めた思いに迫ります。
■ヘルシンキ市の魅力を伝える「The Helsinki Curious」とは?
このたび実施されたキャンペーン「The Helsinki Curious」は、北欧諸国の一つフィンランドの首都、ヘルシンキ市が主催するもので、同市の魅力を伝えるのが目的で実施されています。
「The Helsinki Curious」(https://youtu.be/YMW8_lC8mIs)
そもそも、ヘルシンキってどんな町? と思う人も多いのでは。
実は、フィンランドは5年連続で「世界で最も幸福な国」に選ばれているうえに、首都ヘルシンキは、数年の間に、モノクル(イギリスの情報誌)の「最も住みやすい都市トップ5」やワーク・ライフ・バランス・インデックスで、ワーク・ライフ・バランスに最も優れた都市の一つとして常に取り上げられているほど、人気の都市なのです。
ヘルシンキは、生活の質、活気あるライフスタイル、自然との距離の近さなどが評価された都市として世界的に注目されており、実際、ヘルシンキ市が実施したロンドン、ベルリン、東京での調査によると、「ヘルシンキに行ってみたい」と思っている人が多いことが判明し、東京では約8割にも上りました。
■日本人アーティスト中村隆さんの作品
そんなファンも多いヘルシンキ市は、訪問者にとって魅力的である理由をイノベーティブな方法で解明したいと考えました。そこで、国際的なストリートアーティスト3名に声掛けし、ヘルシンキのエッセンスを作品に表現してもらうよう依頼。その3名とは、ベルリンのJack Sachs(ジャック・サックス)さん、ロンドンのAysha Tengiz(アイシャ・テンギス)さん、そして東京の中村隆(なかむら・たかし)さんです。
左からJack Sachsさん、Aysha Tengizさん、中村隆さん
各アーティストに課せられた条件は、次の2つ!
1.「ヘルシンキへ旅行経験はないものの興味を抱いていること」
2.「プロジェクト進行中はヘルシンキに関するリサーチを行わないこと」
これらの条件のもと、ヘルシンキを訪れたことのある人々の体験談やインタビューをもとにイラストレーションを制作してもらいました。
左から中村隆さんの作品、Aysha Tengizさんの作品、Jack Sachsさんの作品
一番左側の作品が、中村さんの作品です。中村隆さんは、今回の参加について次のようにコメントしています。
「ヘルシンキからの突然のメールとビックリな内容で、タイトル通り、とてもキュリアスだなと最初から今までずっと感じています。訪れた人たちからのお話から想像し、空想上のヘルシンキの街を描くのが楽しかったです。自然豊かな、ではなく自然と一体になった都市の、日の沈まない長い夏の一日を想像し制作しました」
完成したアート作品と制作過程を収めたドキュメンタリーは、2022年9月6日にヘルシンキにて発表されました。また作品ポスターは、同日にキャンペーン対象となる複数都市のビルボードに展示がされ、日本では原宿で公開されました。
■制作秘話も!中村隆さんインタビュー
我が日本の東京を代表するアーティストが、ヘルシンキ市に選ばれるとは、嬉しいものですよね。そんな中村さんの作品はとってもエクセレント! 早速、中村さんに制作秘話をインタビューしました。
――もともとヘルシンキに興味はあったのですか?
「実はヘルシンキについて何も知らず、フィンランドの首都だということも知りませんでした。だからこそ、今回のようなユニークな企画のお仕事にも参加することができたと思っています。ヘルシンキと聞いても『?』状態で、フィンランドと聞いても、『ああ、ムーミンのところか』と思うくらいの知識でした」
――ヘルシンキに関する人々の体験談やインタビューを通じて、どのような感想を持ちましたか?
「人口が少ないので人がゴミゴミしていない、空気が澄んでいて空が綺麗、石畳、古い建物と北欧デザインの新しい建物、人が少し日本と似ていてシャイ…。そのようなことを聞いて、とても過ごしやすそうな、リラックスできそうな街を想像しました。
後日、ヘルシンキに行ってみたら、まったくその通りでした。しかも、聞いたお話の何倍もそう感じることが多かったです。そして、とても治安が良く、コンパクトな街で自然や建物を見るのも楽しいこともあり、街歩きするのにとても楽しい場所でした」
――作品にはどのような思いと工夫を込められましたか?
「体験談をお聞きして、イメージの切れ端をたくさんいただいたのですが、それを現実感を持って描くことがむずかしく、どうしたら現地の人にも奇天烈と感じないようなヘルシンキの街を描けるのか苦心しました。
ヘルシンキの人たちは夏の時間をとても謳歌する、とお聞きしたので、その雰囲気だけでも描けるように工夫しました。また明るい面だけでなく、人が暮らしているので、長い冬を過ごすたくましさのような面も感じさせるような絵にしたいとも思いました」
その他、中村さんのインタビューを含む動画もぜひご覧ください。
[https://youtu.be/ET-UL5krPFs]
日本人にとってなじみやすい雰囲気であり、ただ明るいだけではなく、深みも感じさせるヘルシンキの雰囲気が、この作品から感じることができます。この作品は、ヘルシンキ市民だけでなく、まだヘルシンキに行ったことのない日本人にも大きな影響をもたらすのではないでしょうか。
*
ヘルシンキについて、もし興味が少しでも湧いたなら、この中村さんの作品をきっかけに、ヘルシンキの情報を集めてみたり、人々の文化や生活に触れてみたり、実際に出かけてみたりして、ヘルシンキの魅力に迫ってみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
中村 隆(なかむら たかし)さん
1976年生まれ。新潟県出身。主に、企業広告、ポスター、書籍、教科書、雑誌などで活動中。主な受賞に、HBファイルコンペ日下潤一賞、仲條正義特別賞、TIS公募銅賞など。
「The Helsinki Curious」(https://www.myhelsinki.fi/en/helsinki-curious)