なぜ虫歯は治らないのか。削るばかりの治療は時代遅れ?歯科治療の最前線を探る

2018/10/19
マガジンサミット編集部

日本における虫歯治療の基本は、長らく虫歯になった部分を削り取ることでした。しかし今、その治療法は可能な限り“削らない”治療へとシフトチェンジしつつあります。

「削る必要のない健康な歯まで削ると、歯の機能を確実に衰えさせてしまう」と話すのは、都内で“削らない 痛くない 抜かない歯科”をコンセプトに新しい治療をおこなう『西永福歯科』の山口昌良院長です。

削らない・痛くない虫歯治療とはどういったものなのでしょうか。そこで今回は山口院長にご協力いただき、歯科治療の最前線を取材しました。

人生100年時代。削るだけの治療は古い

虫歯治療をされた方のなかで、ある日突然、銀歯が外れ慌てて歯医者に駆け込むと、銀歯の下で再発した虫歯がかなり進行していた…などの経験をされた方はいませんか?

詰め物やかぶせ物をすると、内部で再発した虫歯に気がつくのが遅くなりがちです。また、一度、治療した歯を再治療する際には、以前よりも虫歯が広がっているため、さらに大きく歯を削る必要があります。虫歯が神経を侵食している場合は神経を取り除かなければいけません。

神経を取り除けば、自発的な痛みを感じなくなります。ですが、痛みも感じず血液から栄養を吸収することもできない歯は、もはや枯れ枝のような状態。虫歯菌にも犯されやすくなり、結局、このような治療のサイクルを繰り返すことで、最終的に抜歯、入れ歯、インプラントなどに解決策を求めることになります。

「人生100年」といわれる時代に、このような虫歯治療は必ずしも適切ではありません。私は長く歯を残し、削ってしまうだけでない、もっと革新的な内科的治療法はないものかと考えていました。

そこで、現在、当医院で積極的に取り入れているのが「ドックスベストセメント治療」です。

削らない、痛くない「ドックスベストセメント」とは?

ドックスベストセメントは、人間の血液中に含まれる銅イオンを主成分とし、複数のミネラルから作られた薬です。アメリカでは広く治療に使われていますが日本では未承認の新しい治療法で、現在は保険適応外のため自費となります。

治療法は虫歯の進行状態によりケースバイケースですが、ドックスベストセメントの充填に必要なごく最小限の部分を削り、なるべく健康な歯の部分を残します。(だたし、いちど黒くなった歯は白く戻らないので、その部分は患者さんと相談のうえ削り取るなどの処置を行う場合があります)

また、ドックスベストセメントの治療ができる条件として「神経」が残っている歯である必要があります。

治療の手順を簡単にご説明すると、レントゲンで虫歯の規模を確認した後、エナメル質を削り虫歯に感染した部分を露出させます。虫歯を念入りに消毒し殺菌し洗浄した後、あえて虫歯を残し、軟化象牙質(細菌に感染して軟らかくなってしまった象牙質)にドックスベストセメントを詰め封鎖します。

やがて、ドックスベストセメントに含まれるミネラルなどが浸透し、虫歯部分は無菌化され石灰化します。歯の自然治癒力を促しつつ、その働きにまかせるわけです。

神経さえ残っていれば、歯は自力で再生できる可能性を残しています。日本の歯科技術は、削ることに関して、その速さと正確さは世界トップレベルです。しかし、その技術力のみが進歩し、いかに歯を残すかという視点の治療は他国の比べ遅れをとっているように思います。

痛くない歯医者をめざす

もちろん、一番良いのは虫歯にならないことです。生活習慣の改善や日頃のケアが大切であり、予防歯科外来にも積極的に通っていただきたいのですが “痛い・怖いイメージ”が先行し歯科医から足が遠退いてしまう。そういった意味でも歯医者のイメージを怖いものから優しいものに変え、もっと患者さんの身近な存在になるために、ドックスベストセメントをはじめとした内科的治療法は必要です。

虫歯は風邪の次に罹りやすい病といわれています。それだけ身近な病なのですから、薬ひとつで治療できる世の中になったならば夢のようです。ドックスベストセメント以外にも(例えば「3Mix-MP法」など)薬による内科的治療法はありますが、先ほどもお話したように“削る”技術に特化してきた日本では、欧米ほど内科的アプローチは進んでいません。

現在「ドックスベストセメント」を積極的に取り入れている歯科医は、全国で1%くらい。9万くらいある歯医者さんはのうち100軒くらいが導入している計算になります。

患者さまは圧倒的に歯を削りたくない方が多く、ドックスベストセメント治療の噂を聞きつけ杉並区外から当医院を訪ねられる方も増えてきました。当医院の予約も困難になりつつあります。

しかし、一万症例以上の経験を積む歯医者さんは少なく、できれば、これはドックスベストセメントに限らずですが、症例をより多く経験している歯医者さんを探されることをおススメします。

お父さんは「お菓子屋さんでした(笑)」

年齢のせいでしょうか? 何代か続いた歯医者の跡取り先生に思われることもあるのですが…じつは、実家は製菓やパンなどを扱う“お菓子屋さん”です。

父からは「おまえはお菓子屋の敵だ」なんて冗談を言われることもあるのですが(笑)。食事やお菓子を楽しむためにも、虫歯は放置せず積極的な歯のケアを怠らないでほしい。そして、患者さんにお願いするだけでなく、我々、歯科医も積極的に変わらなければいけない時代がきています。

さらなる経験と症例を積み、「歯医者は怖い」というイメージをもたれている方、長い期間ご自身の歯で噛み、健康寿命をのばしたいと思う方に、積極的にお応えできる歯科医でありたいと思っています。

山口 昌良

医療法人社団名月会 代表理事

2008年 日本大学歯学部卒業

2009年 哲学堂デンタルクリニック勤務

     ひまわり歯科勤務

2011年 吉祥寺まさむねデンタルクリニック勤務

2011年 12月 西永福歯科 開院

2014年 12月 西早稲田駅前歯科 矯正歯科 開院

この記事が気に入ったらいいね!しよう

マガジンサミット編集部
この記事を書いた人

マガジンサミット編集部

編集部のTwitterアカウントはこちら 【マガサミ編集部Twitter】 編集部のYoutubeアカウントはこちら 【マガサミYoutube】

マガジンサミット編集部が書いた記事

あなたへのおすすめ

カテゴリー記事一覧

pagetop