人気職業である美容師はお客さんとの会話が多い仕事ですが、みなさんどんな話で盛り上がっているのでしょうか。
そこで今回は、【美容師がよく聞かれそうな質問】を中心にいろいろ取材。
美容師の髪は誰が切るのか?毛髪の量でカットの難度は変わるのか?など。
原宿の人気美容室をはじめ、カツラ専門店、美容師コンテストなど各所で腕を磨いてきた美容師歴30年の前喜弘(まえ よしひろ)さんに、答えてもらいました。
- ヴィトンの道具入れがイカしている前喜弘(まえ よしひろ)さん。大ベテランでも、日々鍛錬を怠らないカリスマ兄貴!
―― まずはよく聞かれる質問だと思いますが、美容師さんって、自分の髪はやっぱり自分でカットするんですか?
私は自分で切ります。ハサミの扱いには慣れてますから、もうほとんど感覚だけで、前髪から後ろまで全部切っちゃいます。もちろん人の頭とは違うので、手がこんがらがったり、不自然というか、変なポーズになっちゃうので切りやすくはないですし、厳密に見ると左右対称に仕上がってはいないんですけど。どうせ整髪料でスタイリングするので問題ないです。
―― 同じ店の方にタダで切ってもらったり、練習ついでにやってもらってるイメージでした!
そうですね。いつもは自分で切りますが、大事な人に会うとか、真面目な場所に行く、とかいわゆる「勝負の日」の前には、やはり元同僚の美容師に切ってもらいます。どうしても失敗したくないので(笑)
私のつむじの位置とか、髪質をわかってくれていて、腕の良い友人に頼みますね。もちろん普段は自分の髪をアシスタントの練習台に提供することもありますが、ここぞという日は絶対にアシスタントには頼みません。技術のある、ちゃんとした美容師に切ってもらう(笑)
―― ちゃんとした美容師……(笑)技術といえば、お客さんの中には、髪が薄い方もいらっしゃると思いますが、やはり難しいものですか?
髪が少ないからといって特に難しいことはありません。
きちんとコミュニケーションをとってカットするのは同じです。
髪が薄いといえば、最近は男性よりも女性に薄毛の方が増えています。
AGAという男性のような髪の減り方、といいましょうか。
女性は身近な人には相談しづらい問題だったりするので、あえて髪のプロとしてどのようなデザインやケアが良いのか提案したり、相談にのるようにしています。
―― 思うように切れなかったり、明らかに失敗したってことはないんですか?
若手時代の話ですが、切りすぎて、お客様に土下座したことがあります。相手はカツラを着用されていた50代男性だったんですが、カツラの下の地毛を切りにこられたんですね。それでカツラを外してから、髪を切って。さぁできたと、仕上げにカツラを頭に戻してみたら、全然合わない。“つなぎ”がないというか、明らかに髪が足りないんです。ごまかせるレベルじゃなくて、一瞬気を失いそうになりました。
―― ご本人にはなんと説明したんでしょう?
お客様は安心しきっていて、眠っていらっしゃったので、まず店長を呼びに行って・・・ 自分が若かったのもあって、責任者である店長が一緒に説明してくれました。「このようになってしまい…」と鏡を見せた途端、当然ですが、烈火のごとく怒られました。あまりの剣幕に「ここは土下座しかない!」とほぼ条件反射的に土下座したんです。それでも怒りは鎮まらず……結局納得してはいただけませんでした。それからしばらくはこの失敗が頭によぎって店に立つのが本当につらかったです。しかし、当時から今に至るまで、この時以上の失敗はありません。糧にはできたかと思います。
―― 大きな失敗があると店に出勤できなくなるアシスタントさんもいるそうですが
乗り越えられなくて、いなくなっちゃう子もいます。自分も美容師を始めた当初はつらくてつらくて、3年の間に4回、修行していた美容室を脱走した経験があります。その度に店長の知り合いが迎えに来て……(笑)そんな下積み時代があるので、失敗に潰されちゃう気持ちもわからなくないです。
脱走……(汗)。髪はのびてくるとはいえ、のびきるまでの時間をデザインするのが美容師さんの仕事。お客様の生活に影響するわけで、とても責任のある仕事なんですね。
お忙しいなか、閉店後、練習中のお時間をいただいての取材となりましたが、様々な質問に答えてくれながらも、その手ではしっかりとハサミを動かし、完璧に仕上げているその技術力に改めて驚きました。土下座に脱走と、穏やかじゃない単語も出てきましたが、みなさんは美容師さんに聞いてみたい話はありますか?