令和の子どもたちに武道団体が果たす役割とは〜「史上最強」極真空手の継承者、極真会館 松井章奎館長インタビュー~

2024/09/10
マガジンサミット編集部

「押忍!」という元気な挨拶が響き渡る道場。凛とした空間で、真剣な眼差しで突きや蹴りを繰り出す子どもたち。取材に伺った極真会館総本部の道場には、昭和の空手のイメージはなかった。

「地上最強のカラテ」「空手バカ一代」…極真空手と聞いたら少し前の世代であれば“ケンカ空手”や“一撃必殺”といったある意味殺伐としたイメージが湧く方も多いのではないだろうか。

しかし、それも今は昔。現在は安心して子どもを預けられる習い事の一つとして人気を博しているという。

令和、そして21世紀における極真空手の在り方とは?

極真空手は松井館長の師でもある大山倍達総裁(1923-1994)が創始。

大山倍達は猛牛との死闘やアメリカに渡ってプロレスラー、プロボクサーとの対戦で自身の強さを証明しほか、現在、フルコンタクトと称される「直接打撃制」の空手競技ルールを考案して実戦カラテとして国内外に大ブームを巻き起こし、極真空手を世界中に普及させた。

厳しい稽古を乗り越え世界大会優勝、百人組手完遂といった金字塔を成し遂げた戦績で広く知られ、漂う冷静さの中に見せる優しい笑顔が印象的な松井章奎館長にお話を聞いた。

「私の入門のきっかけも“ケンカに強くなりたい”というものでした。我々の世代はそういう人が多かったと思います。現在は格闘競技も多様化していますが、当時は極真空手が最も実践的な格闘競技だと考えられていて15歳から25歳ぐらいの血気盛んな層の門下生が一番多かったですね。しかし様々な変遷を経て現在は4歳から12歳までの子供達が最も多い会員層となっています」

70年〜80年代はブルース・リーや『空手バカ一代』『地上最強のカラテ』の影響もあって世界中に空手ファンが激増、90年代にはK-1やPRIDEといった格闘技イベントの隆盛で、極真空手も“最強”を目指す多くの入門者を集めた。しかしながら、時代の移り変わりを経て現在はその志向にも変化が見られると松井館長は語る。

「我々の時代は『空手をやりたい』と言ったら、“そんな野蛮なものを”という感じで、たいがい反対されたものです。今は街のいたるところに道場がありますが、当時は道場として物件を借りたくても大体断られましたし、貸してくれるとしても倉庫や地下といった条件の悪いところをあてがわれたものです」

現代での空手のイメージは大きく刷新、身近で親しみやすいものとなってきている。

「だいぶイメージが変わりましたよね。社会的にみたらかなり健全化してきていると思います。同じ格闘競技でも、オリンピック競技である柔道やレスリング、また、大相撲などで活躍している選手たちは幼少期からその競技に親しんできている人がほとんどだと思います」

健全な「武道団体」として現代社会で果たすべき役割は何か?松井館長は力強く語った。

「我々は武道団体ですが、その実、社会体育団体なんです。「体育」というのはどういうことかというと、講道館の上村(春樹)館長は『要は体を使った教育なんだ』と仰られました。現代は、当たり前に家庭や学校で教えられていた社会的規律や風紀、道徳といったものを伝えるのがままならない現状もありますが、そういった教育を道場に期待されているのではないかと思っています」

極真空手が稽古を通じて目指す人間像とはどのようなものなのだろうか。

「昔から武道修行は“人格の陶冶を目指す”ものと言われますが、一言で言えばそういうことになります。簡単に言えば他者や社会から『良い人、素晴らしい人』と評価させる様な性格や感性、情緒の豊かさを身に付ける事を目指すとでも言うのか、団体も、関わる個人もそこを目指す存在でありたいと思っています」

「心技体」の中の「心」、いわゆる精神的な成長を担う役目を果たしていくことが極真会館の稽古の大きな役目だという。

「実は、人間には万人が持つ素晴らしい能力があります。それは『反復したことは必ず身に付く』という能力です。ところが、これはとても厄介な能力でもあるのです。なぜならそれが正しいか誤っているかに拘らず反復した事が身についてしまうからなのです。だからこそ、『現状を踏まえて、正しい方向を見極めること』がとても大切なのです。自分の目指すべき正しい方向に正しく焦点を合わせることができる、これを才能というのではないかと考えています」

松井館長は、武道を正しく学ぶことはこの激動の時代を生き抜く力や術になると話す。

「『武の道は礼に始まり礼に終わる』と言いますが、そもそも礼法自体が、『私はあなたを尊重していますから攻撃しないでほしい』という意を伝える護身的な作法なのです。武道、武術というのはそれを支える『戦わないための戦う技術』と言えるかもしれません。

世代を問わず老若男女の入門の増加も顕著だという。

「現在はお子さんと一緒に稽古に通われる親御さんがおられますね。また、昔はできなかった、また昔やっていたが挫折してしまったという人が改めて挑戦したいという人もいます」

幅広い層の人たちへ道が開かれていく極真空手をこれからどう継承、発展させていくか。

松井館長は、力強くこう語った。

「私は極真会館の様々な時代を生きてきて、極真空手は危ない、野蛮だ”と言われることがないか常に気に留めています。明るく健全に活動するために努めています。向上心を持って稽古に励むことが自らの人生を豊かにしていくものでなければならないと思っています。是非、極真の道場に気軽に訪ねて頂きたいと思います」

かつて極真の創始者、大山倍達氏は「実践なくんば証明されず、証明なくんば信用されず、信用なくんば尊敬されない」と説きました。深遠な空手の道もまずは実践から。まずは第一歩を踏み出すことから全てが始まるようだ。

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