「お金儲けを目指さない株式会社が、お金を稼げるか」そんな実験をしている会社が東京にある。
株式会社こす.くま。HIKAKINやはじめしゃちょー、東海オンエアといった名だたるYouTuberたちの企画・構成を長年手がけてきたYouTube作家二人が、2019年に立ち上げた会社がある。共同代表の「すのはら」さん、「たけち」さんは、これまで培ってきた実績とネットワークを全て抱えて、新しい挑戦に踏み出している。

※陰で活躍する裏方のため、会社オリジナルキャラクターを被って、インタビュー・撮影を実施
「着るだけで寄付になる」メジャーリーガー村上宗隆と仕掛けた実験
2026年2月、こす.くまはメジャーリーガー・村上宗隆選手との共同プロジェクト「Beve(ベベ)」を始動させた。QRコードが刻まれたオリジナルTシャツを販売し、その売上の一部と、QRコードから集まった寄付金を日本小児がん研究グループ(JCCG)に届けるという仕組みだ。
「意志を着よう。世界を揺らそう。」というコンセプトのもと、Tシャツという身近なキャンバスを通じて、一人の行動が次の誰かへとつながる「意志の連鎖」を育てていく。

ここで仕掛けられているのは、単なる社会貢献活動ではない。「寄付の概念そのもの」のフリップ(裏返し)だ。
プロジェクトは、村上選手の「多くの人から注目され、影響を与える立場にある野球選手、そしてメジャーリーガーとして、自らの行動で示すべきことがあるのではないか」という責任感と使命感がきっかけだったそうだ。
「寄付ってどうしても「ちゃんとやるもの」というイメージがあって、ハードルが高いですよね。でも実際やってみると、めちゃくちゃ気持ちいいことだし、もっとみんながカジュアルにできたらいいなと思っていて」とすのはらさんは言う。
こうした考えから、寄付=特別な行為ではなく、「日常の延長線」で「寄付は重い」「ハードルが高い」といった心理的な壁を和らげ、ファッションを楽しむ感覚で誰もが無理なくできることを考えた結果、「Tシャツ」という身近な存在に辿り着いた。
「Tシャツを買うだけで寄付になる、着るだけで寄付を広げる行為になる。既存の口座に振り込むという寄付のイメージをひっくり返していきたい。でも、ただのお金儲けにはしたくないから、ちゃんと意義のあることにしようとなった」と振り返る。
トップYouTuberの動画を支えるこす.くま。
こす.くま。の二人は、10代からテレビとYouTubeの両方で企画を作り続けてきた。すのはらさんは高校時代から自身のYouTubeチャンネルを運営しながら、裏方として他者の動画を伸ばすノウハウを独自に研究。音楽のために上京した後、「表に出る職業は嫌だ、でもこのノウハウは活かしたい」という思いからYouTube作家の道を模索した。
一方のたけちさんは、中学時代にテレビのエンドロールで「放送作家」という職業に出会い、18歳で初めて書いた企画書がテレビ局で議題になるほどの才能を発揮していた。セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスより、影で全てを仕掛けたマルコム・マクラーレンに憧れていたというたけちさんは、まさに生粋の裏方型だった。
二人が出会ったのは20歳ごろ。互いのやりたいことが「仕事として」ではなく「好きなことを遊びでやっていくという感覚」で重なり、コンビを組んだ。「テレビとYouTubeの線引きは今もあまりない」と言う。台本を書き、企画を考え、クリエイターの個性を引き出すその作業の本質は媒体が変わっても同じだ。
YouTube作家として関わってきた名前を聞くとそのスケールに驚く。HIKAKIN、はじめしゃちょー、東海オンエアなど、日本のYouTubeシーンを牽引してきたクリエイターたちの裏で、企画を立て、撮影を仕切り、編集まで手がけてきた。特に、「ばんばんざい。」は二人がゼロから立ち上げたチャンネルだ。
こす.くまが企画制作に携わったチャンネルの総登録者数は約3500万人以上、総再生回数は約60億回以上にのぼる。

社会の常識を裏返す「FLIP」という思想と象徴的なプロジェクト
「Beve」が生まれた背景には、こす.くまが独自に展開する事業「FLIP(フリップ)」という構想がある。文字通り「さっと裏返す」という意味で、社会の常識や既成概念をひっくり返す企画を、インターネットの枠を超えてリアルな場でも展開していこうというものだ。
「世の中に企画を出す、発信するのが好きというのはずっとあって、それをちゃんと定義づけて広げていきたいと思い、名前をつけて活動を本格化させたのが最近という感じです」
FLIPの思想から生まれたプロジェクトは、「Beve」だけではない。
「nequam(ネクアム) 」は、渋谷の路上で拾ったゴミをそのままアートピースとして額装し、1点167,200円(税込)で販売するというプロジェクトだ。「人がお金を出すのは、モノか、権威か、思想か」という問いを世の中に投げかけ、2024年11月に西武渋谷店「Social Innovation Week 2024」にて展開された。

らくがきのかべ は、都内各所に誰でも自由に描き込める合法的な壁を設置するプロジェクトだ。第1弾では、村上宗隆選手が原宿のさくら亭入口の壁に落書きを行い、Instagramで5.6万件のいいね!を記録。その後、動員5万人規模のアートイベント「デザインフェスタ2025」への出展も果たした。

さらに、ホームレス状態の男性を主人公に、その日常と挑戦をYouTubeで発信するチャンネルのコンセプト設計を担当したプロジェクトもある。チャンネルはKADOKAWAから書籍を出版し、登録者38.5万人を達成。グッズとして販売したTシャツはZOZOTOWNのTシャツランキングで1位を獲得、1590枚を売り上げた。

また、折り鶴10万羽を燃やすプロジェクトでは、被災地への千羽鶴の扱いに困る現地の声をきっかけに生まれた企画が、SNS上で都市伝説的に拡散し10万回再生を記録した。

これらのプロジェクトに共通しているのは、「ネガティブに見えているものの意味をひっくり返す」という発想だ。ゴミの無価値さ、落書きへの偏見、ホームレスという境遇、善意から生じてしまう「廃棄問題」。こす.くまはそれぞれの常識に静かに疑問を投げかける。
ただし、その根底にあるのは、「企画・発想」でいかにナラティブにユーモアに「裏返す」かだ。
「楽しいことだけ追求した方が、高く飛べる」
では、なぜこのタイミングでFLIPなのか。その答えは、AIへの向き合い方と、過去の原体験という。
「インターネットに存在している全ての文字・画像・投稿は、多分AIに移り変わるし、AIか人間かの区別がつかなくなる時が来ると思っていて」と話す。「そうなった時に、エンターテインメントってなんだっけというのを考えているんです」
二人が見ているシフトは3つある。AIの発展で余暇時間が増加すること、AIでは代替されない人間の創造性と感性の重要性が高まること、そして自己実現につながる遊びや創作活動の価値が高まること。
この3つが同時に起きる時代に、人間が向かう先は何か。その問いにFLIPで答えようとしている。
重要なのは、こす.くまが決して反AIではないという点だ。「AIもめちゃくちゃ触りますし、ネイティブです。AIを理解することで、逆に人間らしさが鮮明に見えてくる」
こうした思想は、たけちさんの前職での痛烈な体験からも来ている。「20代の別の会社にいた時、めちゃくちゃ数字主義だったんです。再生数を出せるか、売上はこれだけか、株主を入れて上場できるかみたいな。ゲームとして面白かったし楽しさも感じたんですけど、そのゲームで取りこぼした豊かさも実感していて。AIの時代に何が大事かと考えたら、こっちの取りこぼしてるやつの方が大事だから、ちゃんと追求してみようという気持ちがすごくあります」
株式会社として売上や利益を追わなくていいのか、という疑問に対する答えはシンプルだ。
「楽しいことだから継続したい、だったら売上を追求しよう、という順番になる。売上利益を第一に置いていないけど、結果的に積み上がっていく状態が作れるんじゃないかというのを実験しています。そしてもし存続できなかったとしても、それは実験として存続できなかった結果になるということで(笑)」
次に仕掛けるのは「人間そのもの」
現在、FLIPのプロジェクトは水面下で5〜6個が同時進行している。さらにファンドからの出資も受け、FLIPへのコミットを強化している段階で、規模も過去のものより大きくなるという。

二人が今、特に気になっている社会の変化がある。ショート動画の台頭によって、長いコンテンツへの耐性が失われつつあることだ。
「ショート動画しか見られなくなっている状態が少し心配で。長いスパンのコンテンツや、1年2年かけて何かに向かって頑張るという方向性すらも我慢できなくなるんだったら良くないかもしれない」と危惧する。
ただし、ショート動画そのものを否定しているわけではない。問題はコンテンツの形式ではなく、一種類の形式だけがアルゴリズムに優遇される構造だと見ている。
そこで二人が作りたいと考えているのが、「人間を深掘りする情報バラエティ」だ。AIが全てを生成できる時代になると、人々の興味のベクトルは逆説的に「人間そのもの」へと向かうと読む。「AIと人間を比べた時に、人間って何なんだっけという実存への問いがどんどん求められていく。かつてのテレビ番組「トリビアの泉」のような、知的好奇心を刺激するコンテンツをYouTubeで作れたらいいなと思っています」
こす.くまが最終的に目指しているのは、「こすくまだけがこれできました」で終わることではないと強調した。
「再現性を残したいというか。プロセスエコノミー的に言うと、やっている結果にお金がついていなくても、過程がかなり面白くてワクワクできていれば、それをコンテンツにしていけばキャッシュエンジンとして成立できるよねというのが頭の中にはあって。果たして本当にできるのかはわからないので、一回自分でやってみるかというフェーズです」
もしこの実験が成功すれば、「遊びを仕事にする株式会社」のモデルが、ひとつ世の中に生まれることになる。
「こういう会社もありますよ、ということを世の中に定義していきたい。もっと他の企業も追従していいんじゃないかなとは思っています」と野望は壮大だ。
稀代のYouTuberを陰で支える二人の作家は、そのノウハウと人脈と哲学を全部抱えて、次の景色を見に行こうとしている。
株式会社こす.くま
https://kosukuma.com/home.html






