平成29年名古屋場所、揃い踏みする四横綱、新大関・高安、宇良は上位陣を敗れるか、見どころ盛り沢山ですが。さて、このマガジンサミットで過去に何度か大相撲改革案を唱えました。
「土俵を大きくしてみては?」
「マルチビジョンを設置してみては?」
など挙げましたが、またひとつ提案をしたい。
LIVEで見られる「ナイター相撲」
大相撲は午後6時打ち出し(終了)です。当たり前になっていますが、考えてみれば早く終わりすぎだと思いませんか? そこで、大相撲改革案「ナイター相撲」にしてはどうでしょう。ずらすのは1時間だけ、午後7時打ち出しにするんです(プチナイター相撲と呼ぶべきか?)。
単純明快なメリットは2つ。
仕事終わりの会社員も会場へ生観戦しやすくなる
幕内の取り組みが午後5時からとなるので、強い力士がリアルタイムで沢山見られる
5時に終わる一般企業の会社員は、会場へ生観戦しやすくなります。テレビ中継も7時終了のほうが見られる人は格段に増えるでしょう。たった一時間押し出すだけで、世界はガラリと変わると思うのです。
例えば子供たちが、今まで見ることのなかった若く体の出来ていない三段目や幕下の力士を見る機会が増えます。「身体が小さくてもお相撲さんになれるんだ」とカルチャーショックを受け、道を志すかもしれません。
チケット倍率の高い土日も、平日に分散できます。とにかく、相撲との接点が増えるので、長い目で見ても人材獲得や新規ファン獲得にメリットは大きいと思います。また、テレビで大相撲中継を流す飲み屋さんもお客さんが増えるのでは? など、いろんな需要が見込めそうです。
一度きり行ったナイター相撲
昭和30年(1955年)秋場所、大相撲はナイター興行を一度だけ行ったことがありました。この時は打ち出しが午後8時。サラリーマン客をはじめ多くの大衆に親しんでもらうためで、試験的に行われました。そう考えると昔のほうが大相撲は改革的だったんですね。
当時は今と同じ四横綱時代、栃錦、鏡里、吉葉山、千代の山という豪華な面々が午後7時以降の土俵に上がって歓声を浴びたわけです。
しかし、ナイター興行が行われたのは後にも先にもこの一場所だけ。つまり、あまり評判が良くなかったのでしょう。そこで、当時のことを調べてみました。
力士のアンケート
昭和30年7月号の雑誌「大相撲」(読売新聞社刊)に、初めてのナイター興行を前にした力士たちのコメントが載っていました。
豊山「ナイター制は、下位の取り組みから見てもらえるし、いいことだ」
前乃山「賛成だね。初場所はつらいだろうが、夏、名古屋、秋場所はいいよ。けいこ時間が真昼間なのがつらいが…」
明武谷「日中では、見にくる人がかぎられてしまうから、ナイター制にしたほうがいいね」
柏戸「ナイターは結構だ。打ち出しを7時にすれば、サラリーマンなどの一番忙しい時間をはずすことができる」
玉乃島「いきなり全ナイターにするのはちょっとムリかな。これからはファンの意見もどんどん聞いていきたい」
琴桜「ナイター制にして客を吸収しようとするよりも、本来の土俵をしっかりするほうが先決だ」
長谷川「成功するかしないかは別として、一応やってみたらどうだろう」
ちょっと驚きでしたが、やや賛成派のほうが多かったです。
そして、初めてのナイター相撲が行われました。実は、力士たちは生活のリズムが狂い、体調を壊す者が続出。というのも、特に幕内は通常夕飯を食べる時間に相撲を取ることになったため夕食の摂り方に苦労したそうです。2時間が力士の調子を狂わせました。
15日間を終え、世間の反応はどうだったのでしょう?
苦情)
・テレビ観戦で、「子どもの勉強時間が削がれた」
・夜のお仕事、水商売をしている人からは「終盤の取り組みが見られない」
・農家の方から、「夕方は良かったが、夜の作業に支障がある」
など、ファンからは芳しくない声が。
更に意外なところから不満が聞こえてきました。テレビ局や新聞各社からでした。当時は、民放テレビでも大相撲が放送されていたのですが、スポンサーが付く民放は従来の放送から2時間先延ばしにする必要に迫られ調整が難しくなりました。知名度が低い幕下以下の取り組みを実況放送してもしょうがないので構成に各局四苦八苦したそうです。
一方、新聞は、「8時の打ち出しでは全ての取り組みの記事が整わないのでキツイ」と。遠方の東北には終盤の結果が載らない日もあったそうです。
余談ですが、11日目「横綱・千代の山 対 関脇・若ノ花」は、史上まれに見る大相撲で、水入りが2 回、2番後取り直ししたが決着つかず、結果は「引き分け」。総取り組み時間なんと17分15秒でした。
おそらく打ち出しは8時30分を越えていただろうと思われます。
調べて出てきたのは「苦情」だけでしたが、勿論ナイター相撲で喜んだファンも沢山いたと思います。
柏戸が「午後7時打ち出しに」と言っているように、力士感覚では1時間ずらす程度が良かったのかもしれません。とにかくデメリットが大きいということでナイター相撲は一度きりの幻に。聞くところによれば、これがトラウマなのか、それ以来ナイター相撲の話題は一度も出ていないとか。
ただ、これは50年以上前の前例です。時代はかなり変化しました。人の生活サイクルも様式も大きく変わり、メディアは多様化してスピード感は比べ物にならないほど向上しました。
ナイター相撲の問題点
今、ナイター相撲興行で打ち出しを午後7時にするとして、懸念する点は?
他のスポーツとのバッティング?
真っ先にプロ野球、Jリーグが挙げられます。でも、そんなにお客の取り合いになるでしょうか?そもそもプロ野球とJリーグがすでにかぶっていますよね?
さらに言えば、今や、プロバスケット、バレーボールなど時期よっていろんなスポーツ興行が開催されています。テレビ放送もBSやCSが多く地上波の視聴率の奪い合いになりません。というか、他に文句をつけるのではなく、自分たちがどうやったら会場にお客さんを呼べるか、いかにしてファンを開拓して増やすか知恵を絞るのが先決で重要です。逆に、大相撲がナイターになると「相撲に負けないように頑張ろう」と発奮し、他のスポーツ興行に好影響をもたらすかもしれません。
それに大相撲は1興行15日間だけなんです。
NHKの放送時間?
大相撲中継を行っているのはNHKだけです。NHKは午後7時からの「ニュース7」は高視聴率をマークしている番組です。なので、大相撲中継から直結なら“カモがネギ”的に、力士が数字を運んでくる流れになりそう。逆にウエルカムかもしれません。
力士は?
肝心な力士たちはどう思うか、もちろん聞いてみないとわかりませんが、本場所が一時間後ろにずれるとどうなるのでしょう? 力士の一日のスケジュールを見てみると…
起床は番付が低い力士が早く、5:00~5:30。
関取は7:00~7:30。
どこの部屋もおおよそ同じです。本場所中は、もう少し遅い時間に起きるということです。昭和30年は、打ち出しが午後8時で2時間も変化したためコンディションを崩す力士が多かった。ただ当時は、協会側から事前に注意点や対応策をレクチャーするなんてことはなかったかもしれません。
今なら、通常から1時間ずれた場合の問題点を多方面から推測してアドバイスも出来るはずです。一概に言えませんが、1時間くらいならさほど支障はないのではないでしょうか。
これら意外にも、決して簡単ではない事情はあるかと思いますが、昭和30年に一度決行しているのなら、“できる”ってことですよ。
アンケートを取ってみれば?
2007年に部屋での暴行事件、更に野球賭博や八百長問題などの不祥事が相次いだため人気が低迷し、一時は入場者が激減した大相撲。危機感に迫られた協会は、相撲とは関係ない外部(大学教授、公認会計士、東京地検特捜部の方~etc)から、時代に合った興業、サービス等のアドバイスを求め人気回復に努めました。それが実って、今は、若貴ブーム以来の盛況を見せています。
そして人気があるから現状維持するのではなく、より一層ファンが喜ぶ大相撲を検討すべきだと思うんです。このままだとそのうち飽きられます。
例えば「土俵を広くしてみては?」という意見は、デーモン小暮閣下をはじめ、多くの人が随分前から唱えています。今回の「ナイター相撲にしてみては?」という、私と同じ意見もネット上でいくつか見かけました。
大相撲協会のホームページには、ご意見・ご質問欄があるので、ファンからの発言も受け付けてはいますが、その声を反映させているかは疑問です。
そこで、もっとオープンで大々的に『大相撲改革案をアンケートで聞いてみては?』ということも提案したいです。会場でのご意見箱、ホームページ、Twitterなどで、アンケートを取ってみると、改善してほしい点なども沢山出てきます。生の声はとても参考になります。そして思い切ることはもっと必要です。
今回の提案「ナイター相撲」、すぐにとは言いませんが、プロ野球がシーズンオフになる11月場所あたりで試験的に行ってみてはどうでしょうか?
大相撲は日本の国技と胸を張るなら、国民の多くが喜ぶであろう改革を次々に打ち出してゆくべきだと思うのですが、この声は届かないでしょうか。