みなさまは、「茂田井武」という名前を聞いたことがありますでしょうか?
戦後の混乱期に、子供向けの書籍にとてつもない数の絵を描きながら、日本の絵本の隆盛期を待たずに早逝した童画家・絵本作家でございます。絵本ファン、絵本作家の間ではレジェンド的な存在の方でございます。その作品は多くの絵本作家に影響を与えたと言われております。
代表作は、こちらの「セロひきのゴーシュ」(作:宮沢賢治 絵:茂田井武)
今でこそ、宮沢賢治様の童話の絵本はたくさん出版されておりますが、当時(宮沢様没後)は、なかなか宮沢様の絵本は出版されませんでした。絵本にするには難しいと言われておりました。そんななか、初の宮沢絵本として登場したのが、
こちらの「セロひきのゴーシュ」でございます。現在でも宮沢絵本の最高傑作と言われております。ちなみにこちら、去年60周年を迎えた福音館書店の「こどものとも」の第2号の作品でもございます。のちに(1966年)、福音館書店から単行本として再出版されました。
実は、「こどものとも」版の「セロひきのゴーシュ」では、宮沢賢治様の文章が使われておりません。「いぬのおまわりさん」の作詞で有名な佐藤義美様が文を担当しております。子供を意識してかオノマトペなどを使った文章になっております。再発行された絵本(単行本)の方では、原作の宮沢様の文章になっております。
そんな茂田井武様を敬愛し、茂田井様の企画展まで開催されているのが、ポップアートの世界で世界的に高い評価を得ているアノ、奈良美智様でございます。村上隆様と並び、日本を代表する現代美術作家でございます。そんな奈良様と茂田井様の関係ですが、ちひろ美術館のHPによると、奈良様はこのようにコメントされております。
「美術を志したのは、17歳のときだった。田舎に育ったので、世界の有名な絵や彫刻はまったく知らなかった。自分はなにを見てこういう道に進もうと思ったのかと振り返ったときに、子どものころに見ていた絵本という存在が、すごく大きかったことに気がついた。そうして昔見た絵本を確かめていくなかで、再発見した人が茂田井武だった。」と。
なんと、奈良美智のルーツは茂田井武の絵本だったのでございます。そして、その奈良様が今も「新しい」と感じる茂田井武様の作品を選んだ展覧会が現在、開催されております。
その名も、「奈良美智がつくる 茂田井武展 夢の旅人」。
1000点を超える収蔵作品のひとつひとつにあたって、初期から晩年までの幅広い年代の作品を選ばれたそうでございます。場所は「ちひろ美術館・東京」(東京都練馬区)。期間は8月20日(日)まででございます。
そして、その企画展が6月号の月刊MOEでも紹介されており、その紹介者が子供の頃から絵本が好きだった「あまちゃん」でお馴染みの女優ののん様なのでございます。
そこで、のん様は「セロひきのゴーシュ」の感想として、「主人公の穏やかなキャラクターではないところ、動物たちが懲りない感じが面白い。茂田井様は感じるままにこの絵を描いている気がします」と、語っておられました。
奈良美智も認める絵本界のレジェンッド「茂田井武」の世界、この機会に一度体験してみてはいかがでしょう。
(文:N田N昌)