今年も紅白歌合戦の出場者が発表されました。年齢の刷新を図りたいというNHKの意図もあるのか、つぎつぎと演歌や民謡の大御所が卒業を発表。年末恒例だった三味線の音色も聞けなくなってしまいそうな予感です。
しかし、20~30代の会社員男性200人におこなった「人前で披露できるレベルで『演奏できるようになりたい楽器』」についてのアンケート調査(リクルート調べ)では、10位に入るなど三味線は意外にも人気なのです。
伝統的なのに新しい。今、あらためて若年層から注目されている三味線の魅力について、三味線ソングライターの清水まなみさんにお話を伺いました。
津軽三味線と三味線のちがい
三味線には、細棹、中棹、太棹、の3種類があります。それぞれ棹の太さ、胴の大きさ、皮の厚さなどが違い、用途によって長唄三味線、義太夫三味線、民謡三味線、芸者三味線、歌舞伎三味線、津軽三味線などに別れます。私が使っているのは太棹の津軽三味線です。
三味線のルーツは中国の三弦にあるといわれています。江戸時代には三味線という楽器が成立し、各地方では、その土地ならではの演奏や楽曲が確立されてゆきました。津軽三味線もその一つですね。
津軽三味線には“叩き三味線”と“弾き三味線”があります。津軽三味線には、さまざまな流派が存在し、ほとんどの流派が激しく叩き付けるような弾き方で、とても情熱的な“叩き三味線”。一方、唄の旋律を奏でるような弾き方をする“弾き三味線”の“竹山流”があります。
“三味線ソングライター”と名乗る理由(わけ)
私が三味線をはじめたのは高校3年の時です。演奏など聞いたこともなかったのですが、ソフトボール部をやめて時間ができたので、民謡や三味線を習っていた友人に誘われて軽い気持ちではじめました。
初めて津軽三味線の演奏を聴いたときの感動は忘れられません。今でもはっきりと覚えているのですが、一の糸(一番太い糸)を鳴らしただけなのに、その音が心にビィィーンと響いてきましたね。
津軽三味線は1960年代に大ブームになり、急に全国で弾く人が増えました。そのため一部、奏者の中には「他県の奏者が弾いても、それは津軽三味線でなく三味線だ」などと言う人もおり、三味線奏者なのか津軽三味線奏者なのか?という線引きが難しいところもあります。
私個人としては、津軽民謡を演奏するときには津軽三味線奏者。そのほか作曲や演奏をするときは“三味線ソングライター”と名乗るようにしています。
津軽三味線が人気の理由
津軽三味線の魅力は、他の楽器に負けないパワーと存在感です。そして、こころをかき乱されるような激しさと哀愁。優しさなどでしょうか。最近は、従来の枠にとらわれない奏者が現れ、昭和の民謡ブームとはまた違う楽器としてのパフォーマンスの高さが注目されてきています。
私ごとで恐縮ですが、例えば『Manana mar』というアルバムでは、タイトルの『Manana mar~朝の海~』、『サムライ』『Victory』『友情の歌』など「面白い!これ三味線の曲なの?」と聞かれるほど、津軽三味線一本で多彩なジャンルの音楽を奏でています。
津軽三味線って簡単にはじめられるもの?
津軽三味線は、一棹だいたい15万円~300万円くらいです。最高級の棹になると500万くらいする品もあります。なかなかお値段が張りますが、なかには合成皮革や棹が花林(かりん)などでつくられた練習用の三味線もあり、こちらは、~10万くらいで手に入ります。また、最近はレンタルもできますので、気軽に触れて楽しんでみたらいかがでしょうか。
練習は、ご自宅やスタジオを借りるかカラオケボックスや公園。音漏れが心配な場合は、音を軽減できる“忍び駒”などで工夫しているようです。お稽古は相対が基本ですが、最近ではスカイプなどでお稽古する場合もあるようです。
これを聞いておくと間違いない!レジェンド達のおススメCD
ただ、どの楽器にもいえることだと思いますが、音を出せても、弾きこなすとなるとそれなりに練習は必要ですよね。楽器のもつ力を最大限に生かすのは奏者の力量。津軽三味線も奏者が全力で演奏しているからこそ、人の心を揺さぶるのではないかと思います。
そんな、楽器と魂が一心同体、こころが揺さぶられる!凄い演奏が聴ける名盤をご紹介します。
初代・高橋竹山(たかはし ちくざん)
津軽三味線の超名人、竹山流、初代・高橋竹山さん。1963年に史上初、津軽三味線独奏レコードをリリースされた方で、国内外に津軽三味線の素晴らしさを伝えた第一人者です。
この方は盲目の奏者で、北島三郎さんの『風雪ながれ旅』のモデルであり、ご自身の生涯が映画化もされています。私は晩年の竹山先生の舞台を最前列でみたことがあるのですが、ご本人そのものが津軽三味線のような方でした。
※津軽三味線 超高音質リマスターアルバム
演奏のスケールが大きく、目では見えない世界に連れていってくれる感じがします。竹山先生は海外での評価が非常に高く、ニューヨークタイムズの絶賛記事などが元で、日本でその実力を認められたようなところがあり、演者として大変ご苦労された方と聞いています。
澤田勝秋(さわだ かつあき)
私の恩師でもある澤田勝秋さん。この方の演奏を聴いて感動して津軽三味線の魅力にはまりました。澤田先生は長山洋子さんの師匠でもあり、長山洋子さん『じょんから女節スペシャルバージョン』などは格好よくてシビれます!
澤田流家元として数多くの奏者を育てられています。現在もTV・ラジオなどの音楽番組に出演され、奏者としても精力的に活動されています。ポーカフェイスで、さらりとワイルドな演奏をされる姿はまさにクールです。
※決定盤!津軽三味線
上妻宏光(あがつま ひろみつ)
志村けんさんの師匠であり『氷結』のCMで、一緒に演奏されているのが上妻宏光さんです。作曲された『和風総本家』(テレビ東京系列)のテーマ『緑の詩』は、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
最近では、同じくTV東京の市川海老蔵さん主演ドラマ『石川五右衛門』のテーマ曲『月夜の影』などの作曲・演奏をされています。
ご自身は茨城県のご出身ですが、津軽三味線の演奏はもとより、それ以外の楽曲にも早くから取り組んでおられて、三味線の演奏スタイルに新風を巻き起こした方です。袴からタキシードまで着こなして演奏されてとてもダンディ(笑)。紛れもなく現在のトップ奏者だと思います。
※AGA-SHIO(上妻宏光・塩谷哲)
津軽三味線とピアノという非常に組みにくい楽器のDUOで、津軽三味線の新しい可能性にもチャレンジしています。三味線奏者だけではなくピアニストさんにも影響を与えたCDだと思います。
最近では、和楽器バンドというバンド『千本桜』が若い世代に人気のようです。エレキ三味線を使ってバンドさんとのコラボレーションなども盛んになってきました。
八奏絵巻(type-A)(DVD付) CD+DVD
※CD出典 Amazonより
被災地へとチャリティコンサートへの想い
津軽三味線奏者として初めて海外に行ったのは『東北フェアーIN上海』で宮城県の県庁のお仕事でした。津軽三味線奏者である以上、東北は故郷のようなもの。被災地への思いは、やはり特別です。
3.11の大震災では、多くの大切な方を失いました。ただ、ただ被災者の皆様のことを思うだけで何もできないのですが、皆様が少しでもお元気になられることを願って、1月29日に戸田市文化会館大ホールで支援コンサートを行います。
今回は、2011年8月28以来、二度目の被災地支援コンサートでもあり、被災地を想い作曲した『桜ひとり』をはじめとする“希望と祈り”込めた曲を、豪華バンド編成にキッズダンスを加えてお届けいたします。
※コンセプトは“生命力”。聴いたひと誰もがその物語の主人公になれる曲です。
また、清水が『ハルと桜の樹』という物語を書き下ろしましたので、その朗読もお楽しみに。もちろん津軽の景色が浮かぶようにと津軽三味線のソロもお届けするなど盛りだくさんの内容です!
東北のDNAを守り伝えたい!
小唄や浪曲、民謡など、わたし達の生活から遠い存在になりつつあると思います。今年の紅白歌合戦も、出場者が発表されましたが演歌や民謡の大御所が卒業されるなど淋しくもあります。でも反面、新しいカタチで三味線が注目され、より世界が広がっていると感じています。
伝統は日々新しくなって続いてゆくもの。先人達が築いた技や心意気を大切に守りながらも、さまざまパフォーマンスができる津軽三味線や三味線を、もっと自由に楽しくお届けできたらいいですね。
■1月29日の戸田市文化会館大ホールでの支援コンサート
HP http://www.manamishimuzu.com/
収益の一部を東北の桜植樹団体『桜ライン311』他にご寄附いたします。
清水まなみ(しみず まなみ)(作詞・作曲)ペンネーム:Mana
埼玉県戸田市出身
1994年 津軽三味線「澤田流」名取『澤田勝優(さわだかつゆう)』を襲名
1999年 澤田流より独立。津軽三味線合奏団『未来』を結成し、第11回津軽三味線全日本金木大会に初出場して優勝。その後2連覇
2000年 ビクターエンタテインメントよりCD『未来』を発売
2008年 Album『Manana mar』をリリース
2013年 藤井摂氏と音楽ユニット『Sakura』を結成する
2015年、Mini Album『GRACE PURE LOVE』をリリース