昭和の時代、ダッチワイフという言葉にはどこか滑稽で物悲しい印象がともなったものだ。夏のプールに浮かぶシャチやイルカのオモチャと大差ない造形にとってつけたようなバストと局部(いや実際に取ってつけた構造なのだ)。寂しい男のひと時のなぐさみを終えた後も、両手をバカらしく広げ無表情にポカーンと口を開けたまま…なんとも哀切なイメージだ。
しかし現在のダッチワイフは「ラブドール」と呼ばれ、映画で描かれるアンドロイドさながらの進化を遂げているようだ。
意外なラブドール誕生秘話
世界に名だたる日本のラブドールメーカー、オリエント工業。今年40周年を迎え5月には『今と昔の愛人形』展を開催し大盛況のうちに終わった。男性はもとより女性の入場者も多く、なかには「異性から愛されるメイクや顔だちを参考にしたい」といった感想も。ただリアルなだけでない“女らしさ”までをも表現する「ラブドール」達は女性も魅了する。
同社の製品はかつての性処理玩具の域を超え、篠山紀信による写真集が出版されるほどの芸術性に加え、ショールームへの搬入時に死体と間違われ警察が踏み込んだというエピソードを持つ。それほどの超絶クオリティなのである。
※出典 オリエント工業HP https://www.orient-doll.com/top.php
空気人形からラブドールへ。革命的進化のきっかけはなかなかに興味深い。もともとはハンディキャップをもつ客からのオーダーメイドのリクエストだったというのだ。性欲は人間の三大欲求のひとつ。誰しもその処理は避けられない。実際の異性と接触する機会の少ない人こそ、リアリティが必要だったのだ。1977年の開業当初、オリエント工業の製品は障がい者への限定販売だったという。ラブドールはむしろ介護用品として開発されたといっていい。
1体50万がバカ売れの理由
その後ラブドールは進化を続け、見た目だけでなく肌ざわりや肉感に至るまで人間のそれに限りなく近づく。同時に顧客ニーズも多様化し、疑似セックスの道具としてではなく芸術作品として部屋に置きたいという人や、亡くなった妻の面影を投影して傍らに置きたいという需要もある。まさにオリエント工業が活動主旨とする「人の心の支えとなる人形」なのである。
※出典 オリエント工業HP https://www.orient-doll.com/top.php
価格は1体50万円を超え、さまざまなオプションをつけると100万円を超すものもある。にもかかわらず、広まるニーズを背景に現在日本だけで6社を超すメーカーが業界に参入し、アニメキャラ風のものや男性を模したものまで様々なタイプのラブドールが提供されている。またラブドールを従業員とする風俗店まで登場している。確かに個人で購入するにはちょっと覚悟のいる価格だから、一度試してみたい向きには重宝だろう。
そして最先端アンドロイドへ
今年、アメリカの企業アビス・クリエーションズは人間のセックス用に言語機能や動作をプログラミングされたリアルなセックスボットの発売を決めたという。そして人工知能の専門家デービッド・レビー教授は、ロンドン大学で開催された「ロボットとの愛とセックスに関する国際会議」で「セックスボット第一号の誕生に伴い、ロボットとのセックスは2017年中に現実になる」と語った。
いつの時代も最先端の技術を広め、人類の文化をつくってきたのはエロというモチベーションだ。ロボットとのセックスもちょっと愉しみな気もする。ただし「現実の異性よりロボットの方がいい」ということになれば、人類存続の危機となる。現在のラブドール技術はそんな懸念を本気で抱いてしまうほど、スゴイ!