
人口減少やコスト上昇など、日本の小売業を取り巻く環境は大きく変わっている。
そんな中、サプライチェーンAIの世界的リーダーである RELEXソリューションズ(以下「RELEX」)が提供するソリューションは、日本の小売企業でも活用が進み始めている。需要予測から在庫、棚割、価格・プロモーションまでをつなぎ、小売全体を最適化するプラットフォームだ。
今回、共同創業者のMichael Falck氏と、日本での事業を統括する福沢勇貴氏に、日本の小売が抱える課題とAIがもたらす未来を聞いた。
RELEXは何を解決する会社か?

RELEXは、小売のサプライチェーンに特化したソフトウェア企業だ。創業当初は需要予測と在庫最適化に特化していたが、この10年で領域を大きく拡張した。今では、棚割や品揃え、価格・プロモーションの最適化までを統合的に扱う“サプライチェーンの司令塔”のような存在になっている。
その役割を、Falck氏は「正しい商品を、正しい場所・正しい時間・正しい価格で届けること。それがRELEXの使命です」と説明。部分的な改善にとどまらず、小売全体を一気通貫で最適化する点が、同社の最大の特徴だ。
世界でAIが注目される理由・日本の小売が抱える課題とは

サプライチェーンは、AIともっとも相性が良い領域のひとつだ。商品ごとの売上データ、天候、地域イベント、競合のキャンペーンなど、小売の現場では、毎日膨大なデータが発生し続ける。
その複雑さとデータ量を踏まえ、ファルク氏は「扱うデータ量が桁違いだからこそ、AIとの相性が非常に良いのです」と語る。
一方、日本のサプライチェーンは長年、現場の経験や勘によって支えられてきた。しかし、人口減少で店舗運営の負荷は増し、原価・燃料費の高騰も重なり、従来の方法では限界が見え始めている。
福沢氏は「日本のサプライチェーンは人のスキルで成り立ってきましたが、今の環境ではその再現性が保てなくなっています」と、日本での現状を整理。だからこそ、テクノロジーによる補完が求められるようになったのだと言う。
予測精度より大事なのは“人がどう使うか”

AIの需要予測はたしかに高精度だ。気温や週末イベント、競合のプロモーションまで外部データとして取り込めるため、従来よりも正確に需要を見通せる。ただし、重要なのは“予測精度そのもの”ではない。
サプライチェーン全体で価値を発揮するには、需要予測の結果を在庫・補充・棚割・価格設計まで“連動させて”運用する必要がある。どこか一つでも切り離されていれば、在庫過多や欠品、廃棄といった問題は解消しない。
ファルク氏も「需要予測だけでは価値は生まれません。予測をどう使うか、サプライチェーン全体にどう組み込むかが重要です」と指摘。
実際、企業のデータを分析すると、廃棄や欠品の原因が“予測のズレ”ではなく、「品揃え設計の問題」「上流での供給不足」「パックサイズが現場と合わない」など、構造的な課題にあるケースも多いという。
日本の競合との違いは“個別最適”ではなく“統合”

日本市場には、「需要予測だけ」「自動発注だけ」「店舗の棚割だけ」といった“部分最適型”のシステムが多い。
しかし、部分的に最適化しても、サプライチェーン全体がつながっていなければ課題は解決しない。欠品を恐れて在庫を積みすぎれば、バックヤードは圧迫され、廃棄が増える。その調整は常に人手で行わなければならない。
RELEXが重視するのは、これらを一つの流れとして扱う「統合最適化」だ。福沢氏は、その違いを「店舗・DC・サプライヤーまで一気通貫でつなげる。一部分の処理ではなく、サプライチェーン全体を最適化するのがRELEXの特徴です」と説明する。
世界中の小売企業で構築されたベストプラクティスも製品に組み込まれ、日本の商習慣にも対応した形で提供されている。
コスモス薬品がRELEXを選んだ理由

国内での象徴的な事例が、ドラッグストアのコスモス薬品だ。同社は欠品率の低さ、在庫管理の精度に定評があり、すでに高い運用レベルを持っている企業として知られる。
それでもRELEXを選んだ背景には、「人手依存の限界」がある。店舗数が増えるほど必要な人員も増え、教育コストも膨らむ。持続性の観点からも、従来の運用だけでは限界があった。
「コスモス薬品様は、もともと非常に高いオペレーション水準を保ってきました。しかし、その品質を維持・拡大するには、テクノロジーの活用が不可欠になっていたのです」と福沢氏。
発注ルールや細かな例外処理を正確に再現できる柔軟さ、欠品・在庫・廃棄を同時に改善できる点が採用の決め手となったと語った。
店舗オペレーションはどう変わる?

AIは人を置き換える存在ではなく、むしろ店舗と本部の負荷を減らし、より少ない人数でも運営できる環境を整える役割を担う。
例えば、店舗スタッフの作業の約4割は「商品を棚に並べる作業」に使われているとされる。どの商品を、いつ、どれだけ補充すべきかをAIが提示することで、ムダな品出しが減り、作業の平準化が進む。
海外では、スタッフがAIに相談しながら接客する取り組みも始まっている。知識の不足をAIがサポートし、誰でも一定の接客品質を提供できるようにする試みだ。
AIが「複雑な計算と最適化」を担い、人間は「戦略と判断」を担う、そんな分業が進む未来が描かれている。
小売の未来は、一緒につくるもの
インタビューの最後に、両氏は日本の小売に向けてこう語った。

「日本の小売企業のみなさん、そして日本のパートナーのみなさんとともに、AIを活用した新しいサプライチェーンの形をつくり、大きな飛躍を遂げたいと考えています。私たちのAIベースのサービスに期待してほしいです」(ファルク氏)
「読者のみなさんは立場こそ違うかもしれませんが、より良い小売・より良い顧客体験をつくりたいという目指す方向は同じだと思います。ぜひ一緒に、新しい小売のあり方をつくり上げていければ嬉しいです」(福沢氏)
人が長年支えてきた日本の小売を未来へつなぐために、AIはその価値を奪うのではなく、次のステージへ押し上げるための参謀となるはずだ。






