株式会社ワカヤマは、福井県鯖江市にある眼鏡フレームの一貫生産など、塗装・メッキ業を営む会社。その代表取締役社長の若山健太郎さんに、業務内容や地元の課題、県民性についてインタビューを行った。
まずは業務内容から。ワカヤマは工場だが、実はものづくりそのものは行っていないという。お客様が作られた製品に、色つけを行うことで最終製品へと仕上げていく。若山さんはインタビュー時に、金とブラウンのグラデーションの眼鏡フレームをかけていたが、これが高級塗装というものだと若山さんは説明する。つまり、眼鏡フレームなどの1つ数万円の製品に色を付けるのが仕事というわけだ。
なぜ眼鏡フレームをオシャレにコーティングするのだろうか。その目的は、やはり売るためだという。金メッキだけよりも、部分的にマットブラックを入れたり、ピンクを入れたりするほうが売れるそうだ。
鯖江市は、眼鏡の生産で有名だ。若山さんいわく、日本の総生産量の95%程度を担っているという。一方で、消費量については、中国や韓国から安い価格で多く輸入されているほうが高いのが現状。ワカヤマが製造しているのは30,000〜200,000円ほどのハイブランド品だ。
そんなワカヤマは眼鏡だけではなく、人の肌に触れる製品として、強度の高い塗装やメッキが必要な、アクセサリーや医療品、美顔器などのメッキも手がけているという。コロナにより、肌へ直接触れるものには敏感な世の中になった。実際、抗菌・抗ウイルスコートをしてほしいとの依頼も多いという。
そこでワカヤマは、新商品をリリースした。それは「ニンジャコート」と呼ばれる抗菌・抗ウイルスコート製品だ。その名は、まさに「“忍者”のように隠れながら目に見えないところで人を守ってくれている存在」という意味合いも込められているという。自社開発の抗ウイルス塗料が入っており、シュシュっとスプレーして塗るだけで、簡単に抗菌・抗ウイルスのコーティングができるという。
その効果のほどは、一般の人の感覚で10分後くらいには、1/100になるような抗菌・抗ウイルスコートだという。とはいえ、人の肌にはやさしく、ウイルスにはしっかり効く。ウイルス研究機関が開発した特殊な技術を利用しているという。
他にも「クロスガード」という傷修復塗料も手がけている。もともとは眼鏡用に開発されたものだが、今では文具やドアの取っ手など、人が触れる製品に対して多く展開していると若山さん。これも“人にやさしい”というテーマに基づいており、それがワカヤマのものづくりのテーマでもあるそうだ。
話は変わり、地方で会社を運営しているからこその葛藤について、若山さんは話す。鯖江市の中小企業は高度な技術を持っているものの、ビジネス展開がうまくいかないという課題があるというのだ。特に眼鏡は対面販売であることから、コロナ禍で売上が落ち込んでいて問題はさらに深刻な状況だ。
先に紹介されたような高度な技術を開発するなど、他社には真似できないほどのものづくりに懸命に取り組んでいたとしても、それを人に伝える能力が低いため広がっていかない。それは田舎特有の「口下手」が背景にあると若山さん。また、もの作りに熱中するあまり、PRする時間を割けないという背景もあるようだ。
そこでワカヤマは、対策として3年前からデザインを学んだ学生を採用し、自社の存在と技術を世間に発信できるよう、地盤を固めはじめているという。具体的には、技術を人に伝わる形にパンフレットやホームページに載せて伝えるといったように、情報を加工して発信する業務を専門的に担う課を作った。伝えることは大事だが、むずかしい。しかし伝えなければ、ないのと同じ。だからこそ今、挑戦している最中だという。
一方で、福井県は「幸せの度合いが最も高い」という調査結果もあるという。その理由について、若山さんは楽観的なところがあること、そして我が強い人が多いことを挙げる。それが理由なのか、社長になる人の割合が高いという。「自由気ままな性質が、幸せを実感できているのではないか」と若山さんは独自の見解を述べた。
また、福井県の県民性については、北陸の雪国ということから、真面目で愚直な人が多いと若山さん。鯖江市の眼鏡製造業者にしても、小さく、1ミリにも満たないネジ1本から長年、コツコツ手作りしていることを例に挙げた。他にもレンズを作っている会社や特殊な材料を扱う会社など、鯖江市では眼鏡に関するものづくりのあらゆる企業が連携し、チームワークを築いている。そんな福井県の魅力的な一面を紹介し、若山さんはまとめてくれた。