ネットの普及などによって消費行動が大きく変化し、刻々と変わっていく世の中のニーズに販売側が柔軟に対応していくことが求められている現代。顧客のニーズを先読みすることによって自動車販売業で大きく業績を伸ばし、業界の内外で注目を浴びている企業がある。
その企業の名は「マツシマホールディングス」。同社は、京都を中心に国内外の人気メーカーを扱う正規ディーラーを展開、顧客からもメーカーからも絶大な信頼を集めている。また、カーインテリア事業(Kiwakoto)、レストラン・カフェの運営やヘルスケア事業など幅広い取り組みをしている。
今回は、消費者心理のツボを突いた「営業」によって成果を収めた同社の代表取締役副社長・松島一晃氏にインタビュー。父親から受け継いだ「人との関係」を大事にする経営哲学や企業として重視しているポイントなどについて語っていただいた。
生まれた時から「マツシマホールディングスの4代目」という宿命を背負っていた松島氏。幼いころから父親に「経営者になるため」の人生哲学を叩き込まれたという。
「特に『義理人情を大切にしろ』ということは昔からよく言われていましたね。友達との約束を破った時とか、父親からボコボコに殴られたことを覚えています。そういったことは、今でも僕の心の中に残っている大事な教えだと思っていますね」
歴史あるマツシマホールディングスの後継者になれば、多くの社員やその家族の生活を預かる責任が生じる。松島氏は「社長になるのであればもっと立派な人間にならなくては」と考え、父親と相談したうえで、最初の就職先に家業ではなく「保険の営業」を選んだ。
「保険はモノを売ればいいわけではなく、人を動かさなければ契約がとれません。何より人との関係を大事にしなければいけない仕事です。今でも、人間と人間が一対一でどう向き合うかということを重視しているのですが、これは営業の経験が生きていると思います」
仕事にひたむきに打ち込んでいた矢先、松島氏の元に父親から「会社に戻ってこい」との連絡が入る。
「今、会社が大きく変わっていく中で、お前が若い社員たちとその変化を体験するのとしないのとでは大きく違うから、戻ってくるべきだという話をされました。その時は『そんなに言うなら仕方ないか』くらいの感覚だったのですが(笑)、結果として最高のタイミングだったと思います」
「社長の息子が現場に入ってくる」。当然ながら、松島氏は社員たちの試すような視線を浴びることになった。ここで、松島氏は社員一人一人と向き合うことを自分に課した。
「会社の中のカリスマである父と同じことはできないと思っていましたので、自分なりのやり方でいろんな人と一対一で向き合いました」
しっかり一人一人と向き合うことで社員たちの信頼を得た松島氏。同社は「世界一の中小企業になろう」というビジョンを掲げているが、「世界一のディーラー」ではなく、あえて「企業」という言葉を使っている理由について松島氏はこう語る。
「ウチの会社が潰れても、お客様に車を売って届ける役目って別の会社が果たすと思うんですよ。じゃあ何のためにウチの会社があるのかといったら、ウチで働いてくれている従業員やその家族に『この会社にいて良かった』と思える人生を過ごしてもらうためなんです」
社員たちを含めた全員でつくる「家族と社会に誇れる企業」。父親が興したビジョンを基に松島氏が制度を整えることで、従業員思いの会社が出来上がっていった。
また、松島氏は伝統工芸とカーライフを融合させた「Kiwakoto」というオリジナルブランドを立ち上げ、会社に新風を吹き込んだ。顧客のニーズを先読みする新たな試みだ。
「数ある車の中で、たとえばメルセデスベンツのような高級ブランド車を購入される方は、自分らしさとか、こだわりとか、心を豊かにしたいとか、そういう情緒的なものを求めておられると思うんです。そういうものをしっかりお客様に提供できる会社でありたい」
松島氏は、大きく変化していく今後のビジネスにおいても最終的には「人との関係」が大事だと断言する。
「極端な話、車がなくなってみんなドローンで移動するようになっても『マツシマさんでドローンを買いたい』というお客様がたくさんいれば会社として成立するわけです。車の販売をしっかりしていくというのは当然ですが、それを通じてお客様との気持ちのつながりをつくっていかなければいけないと思っています。単にモノをやり取りして『安かった』『便利だ』というだけでなく、お客様に『この会社が好き』『ここで働いている人が好き』と思ってもらえるかどうかということが大事なんです」
最後に、松島氏は今後重視していくべきポイントを教えてくれた。
「『このお客様は何を大事にされている方なんだろう、どういうことが好きなんだろう』ということをしっかり考えて、提供していくことが今後もっと大事になると思っています」
歴史あるマツシマホールディングスに新風を吹き込み、顧客や従業員としっかりと向き合う「人と人の関係」を軸にした会社をつくり上げようとしている松島氏。激動の時代において、躍進を続ける同社への注目度は今後さらに高まっていきそうだ。