
大阪市内から特急「くろしお」にゆられて約4時間。紀伊半島の海岸沿いを走る特急から望むことができる太平洋の海は「車窓絶景」と呼ぶにふさわしく、非日常的な時間と空間が少しずつ立ち上がってくる。
今回、足を運んだのはアンドリゾートが運営する「花いろどりの宿 花游」(和歌山県東牟婁郡太地町)。南国リゾートを思わせる景色に囲まれるように建つ、同宿。宿名は、約4500平米の庭に咲く彩り豊かな花にちなんでいる。2024年12月にはエントランスからロビー、レストランなど施設の1階を全面改装。新鮮なフロアには、陽が気持ち良く降り注ぐ。
すべての部屋で海と熊野の山々を一望

客室数は全部で41室。すべての部屋で海と熊野の山々が一望でき、抜群の開放感を誇る。広大な庭は、季節ごとに見え方が変化。寒い時期も手入れが入念に行われ、春、夏には緑に囲まれる。大きな窓枠はまるで絵画のキャンバスや額縁。その眺望は「変化する風景画」のよう。
「花游」の池田拓峰支配人は「全室オーシャンビューが「花游」の魅力の一つです」と話す。「同じ景色であっても朝と夕暮れ時、お天気や波の起こり、雲の動きによって表情が変わります。時間を忘れて、ふと外を眺めているだけで目の前の景色がどんどん変わっていきます」。

花蓮501
続いて客室内。最初に通されたのが和洋室スイートルーム「花蓮501」。ベッドルームを暖かく照らす花をイメージさせるランプや壁の模様・色はアジアンテイストで、海辺のリゾート気分が堪能できる。「花游亭 よひら」はシンプルながら高級感たっぷりの和室スタイル。木と土の風合いに包まれた数奇屋風の懐かしいデザインになっている。一方の「花游亭 やひら」はベッドルームと和室が別々になっており、ゆとりある時間が流れる。

花游亭プレミアム
最上階フロアにある和洋室スイートルーム「花游亭プレミアム」は二間続きで、洗面台も2台。2家族で宿泊してもゆったりできる。特筆するべきは、「花游亭プレミアム」に限り、スリープツーリズム宿泊プラン「深ねむリトリート」が用意されているところ。
心地良い眠りを届けるため、リラクゼーションと心の安らぎが得られるヨガの体験ができ、さらに歴史のある寝具メーカー昭和西川の高品質なマットレスや、睡眠の質を上げる明林繊維が作るナイトウェアブランド「DREAMiN(ドリーミン)」のパジャマの設置などもされている。宿の滞在期間中、心身のリラックス感覚を味わえるだろう。

花游亭プレミアム
露天風呂、グランピング施設、くじらの博物館を満喫
日頃の疲れを癒してくれるのは、大浴場と露天風呂。どちらもナトリウム一塩化物温泉で、温度は41度。筋肉痛や関節痛、疲労回復、健康増進などに効き目がある。露天風呂は、目の前に広がる海を眺めながらのびのびできる。池田支配人は「夜は大浴場でしっかり体を流していただき、そして空気が澄んでいる朝、露天風呂を利用するのがおすすめです」と話してくれた。

通常の宿泊部屋だけではなく、グランピング施設「グランオーシャンリュクス海熊野」が隣接しているのも特徴。各棟2階建てで、2階は宿泊スペース、1階にはBBQデッキが備えられるなどしており、和歌山の大自然を浴びながらバーベキューを行うことができる。食材は宿のスタッフが事前に準備。調理のレクチャーもあり、“手ぶら”でバーベキューができる。バーカウンターも営業されており、地ビールなどを販売。各棟のアメニティやドライヤーは大人気ブランドの「ReFa」で、女性から好評を集めているという。

「グランオーシャンリュクス海熊野」には、愛犬と一緒に過ごせる「ドッググランピング」も2棟あり、愛犬が安心できるスペースやペット用酸素カプセル(2026年4月30日まで)、ドッグランも導入。大切な愛犬と一生ものの思い出を作ることができそうだ。

また、宿にいるとどこからか、くじらやイルカの鳴き声が聞こえてくる。それもそのはずで、人気観光スポットの「太地町立くじらの博物館」が隣接。同施設では、「くじらの町」として知られる太地町のくじらに関する歴史を知ることができるほか、くじらとイルカのショーも実施されている。くじら、イルカたちが見せるハイジャンプは興奮すること間違いなし。この日はイルカショーが開催されていたが、機敏な泳ぎに客席から歓声があがり、また尾びれをパタパタさせて来場者にお礼をするかわいい姿に表情が緩んだ。

施設内にある「海洋水族館(マリナリュウム)」では、来館者の頭上をたくさんのイルカが泳いで回るトンネル水槽があり、その優雅さに言葉を失う。世界的にも希少な白いバンドウイルカ(アルビノ)は必見だ。「くじらの博物館」ではそんなくじら、イルカたちにちなんだお土産やグッズも豊富に揃えられている。
本格フレンチは絶品、味わいと食感に驚きが止まらない

フォアグラのブリュレ 和梨のコンポートと柿のマリネ バルサミコソース
関連・隣接の施設も充実している「花游」だが、最注目ポイントは、本格的なフランス料理を味わうことができる夕食メニューだろう。客が入店・着席した段階から調理をスタートさせるため、用いられている地元食材は鮮度はしっかり保たれ、きめ細かい料理がテーブルに並ぶ。じっくり時間をかけてフランス料理に舌鼓が打てる。
今回、提供されたのは全部で8品。まず「フォアグラのブリュレ 和梨のコンポートと柿のマリネ バルサミコソース」。キャラメル状になったフォアグラのとろける食感と、表面にまぶされた焦がし砂糖のほろ苦い甘さにうっとり。

那智勝浦漁港で水揚げされた天然鰤とカラフル大根の黄柚子マリネ セロリラブのピュレとフレンチキャビア マイクロハーブのコンポジション
続く「那智勝浦漁港で水揚げされた天然鰤とカラフル大根の黄柚子マリネ セロリラブのピュレとフレンチキャビア マイクロハーブのコンポジション」は、先ほどの「フォアグラのブリュレ」のやわらかさから一転、天然鰤のぷりぷり感、カラフル大根のシャキシャキ感、フレンチキャビアのぷちぷち感など歯ごたえのコントラストに驚かされる。さらに黄柚子の爽やかさも口いっぱいに広がる。また、オプションとしてキャビアの提供も可能だ。

伊勢海老と地野菜のカルパッチョ 瞬間昆布〆 海老味噌ソースとお好みのコンディメントで
「伊勢海老と地野菜のカルパッチョ 瞬間昆布〆 海老味噌ソースとお好みのコンディメントで」は、伊勢海老や地野菜の素材本来の味わいがありながら、旨みをギュッと凝縮させた瞬間昆布〆の風味もまとっており、奥深い一品。地中海の唐辛子を使ったスパイシーな海老味噌や、塩、レモンのコンディメントにより、さまざまな“味の表情”があらわれる。

那智勝浦漁港で水揚げされたメバチ鮪のミキュイ 山椒と黒七味のクルート 古代米の焼リゾットと赤玉ねぎのヴルーテ
「那智勝浦漁港で水揚げされたメバチ鮪のミキュイ 山椒と黒七味のクルート 古代米の焼リゾットと赤玉ねぎのヴルーテ」は、外側を香ばしく焼き上げ、中は水揚げされた鮪のやわらかさを残すなど、絶妙な火加減で調理された鮪のミキュイを、まずはそのまま味わってほしい。そのあと、まろやかな古代米の焼リゾットと赤玉ねぎのヴルーテや、少しの刺激が加わる山椒と黒七味と一緒に食べるなど、緩急をつけた楽しみ方ができる。

蝦夷鮑と那智勝浦漁港で水揚げされた白身魚のポワレ 海老芋とポワローのエクラゼ 磯の香りのソースヴァンブラン
「蝦夷鮑と那智勝浦漁港で水揚げされた白身魚のポワレ 海老芋とポワローのエクラゼ 磯の香りのソースヴァンブラン」は、弾力のある蝦夷鮑や海の風味がしっかり付いた白身魚を豪快に頬張ってもらいたい。一方で磯の香りのソースヴァンブランの優しい塩気は、後味に静かな余韻を残す。さらに海老芋は、きめ細かくてなめらかな口当たりが印象的。一皿の上で多様なグラデーションが広がっている。

和歌山県産 マイヤーレモンのグラニテ
「和歌山県産 マイヤーレモンのグラニテ」の冷たい酸味で一旦、口直しをしたあと、いよいよメインの「三重県産 熊野牛サーロインのロティ 白菜エチュベとポレンタのフリット 菜の花ピュレとソースヴァンルージュ」へ。低温でじっくり焼き上げられた熊野牛サーロインのロティの柔らかさには感動すら覚えた。力を入れなくてもスッとナイフが入っていき、その瞬間、肉汁がジュワッとあふれ出る。
脂はしつこさがなく、一口食べたらすぐに次の一口に手が伸びる。赤ワインベースのソースでコクをつけても良し、塩で熊野牛本来のおいしさをより実感するも良し。ちなみにオプションとして、シェフがフランス産トリュフを削るサービスもある。

三重県産 熊野牛サーロインのロティ 白菜エチュベとポレンタのフリット 菜の花ピュレとソースヴァンルージュ
デザートは「酒粕ブラマンジェ 金柑コンポートとそのジュレ 胡桃とヘーゼルナッツのクランブルとソルベ」。酸味がしっかり効いた「金柑コンポートとそのジュレ」や軽やかな甘さがある「酒粕ボロマンジェ」で整うことができ、ぜいたくなコースメニューの食後を演出する。

酒粕ブラマンジェ 金柑コンポートとそのジュレ 胡桃とヘーゼルナッツのクランブルとソルベ
それぞれのメニューに添えられたブロッコリなどもとても食べやすい味付けになっており、「野菜が苦手」というちびっ子も美味しく口にできるはず。また、高級さとカジュアルさをあわせ持つメニューが提供されるため、「フランス料理に馴染みがない」という人もきっと親しみやすさを抱くはず。
料理を担当しているのは、有名ホテルなどで経験を積んできた藤里勇一郎料理長。藤里料理長は、おいしさや味わいの工夫はもちろんのこと「一皿、一皿、立体を意識しています。目で見てもお料理を楽しめると思います」と語ってくれた。
スマホやパソコンと向き合うことが多い、私たちの日常――。しかし「花游」にいる間は、むしろそんな“ヒマ”はないと思える。綺麗で雄大な景色を前に心が休まり、隣接施設でレジャーを楽しみ、風呂で体が癒され、夕食では1時間半から2時間ほどかけて美味を満喫する。普段とは大きく異なる時間の使い方がそこにはある。「花游」は、私たちの日常をそっとほどいてくれる場所だ。






