
がん治療による脱毛や肌の変化など、外見の悩みを抱える人は少なくない。そんながんサバイバーに、ヘアメイクを通じて笑顔を届けるのが「LAVENDER RING」だ。
2026年8月9日、「ジャパンキャンサーフォーラム2026」で「MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES 2026」が開催された。会場では、メイクや写真撮影を通じて自分らしさを取り戻していく参加者の姿が見られた。
がんサバイバーの「いつもの自分」を取り戻すヘアメイク

「LAVENDER RING」は「すべてのがんサバイバーに笑顔を」をミッションに、2017年にスタートした社会活動だ。認定NPO法人キャンサーネットジャパン、資生堂、電通の有志を中心に運営されている。
活動の中心となる「MAKEUP&PHOTOS WITH SMILES」では、がんサバイバーにヘアメイクやメイクレッスンを行い、その後に写真を撮影。完成した写真をポスターに仕上げて社会へ発信している。

取材当日、3階の会場では、資生堂のヘアメイクアップアーティストが参加者一人ひとりと向き合いながらメイクレッスンを行っていた。
参加者は鏡を見ながら、プロのアドバイスを受けて自身でもメイクに挑戦。会話を交わしながら、表情が徐々にほぐれていく様子も印象的だった。

メイクを終えた参加者は1階の撮影会場へ移動し、プロのフォトグラファーによる撮影に臨む。カメラの前では、それぞれが思い思いの表情やポーズを見せていた。こうして撮影された写真は、一人ひとりのメッセージとともにポスターとして形にされる。
資生堂は1950年代から培ってきたカバーメイクやアピアランスケアの知見を生かして活動に参加。これまで7つの国と地域で展開し、約1,200組のがんサバイバーにメイクと写真撮影を通じて笑顔を届けてきた。2026年でLAVENDER RINGは10年目を迎える。
「外見ケアがもたらす変化」とは

イベントでは、資生堂のヘアメイクアップアーティストや研究員らによるメディア向けの囲み取材も行われた。
今回で9回目の参加となる資生堂ヘアメイクアップアーティストの神宮司芳子氏が、この活動に携わるきっかけとなったのは、がんを患った直属の上司だったという。
治療のためウィッグを使うことになった上司からカットを依頼され、自身の技術を生かして自然に見えるよう整えたところ、とても喜んでもらえた。
「自分の技術が人に喜んでもらえることが、自分自身もすごく嬉しかった」と神宮司氏。その経験からLAVENDER RINGを知り、活動への参加を続けてきた。
活動を通じて感じているのが、外見が整うことによる内面の変化だ。治療によって髪や眉毛、まつ毛が抜けるなど、外見が大きく変化するケースもある。神宮司氏は、ヘアメイクによって自分らしい姿に近づくことで、自信が生まれたり、行動が広がったりする様子を見てきたという。

同じく資生堂ヘアメイクアップアーティストの砂川恵子氏は、メイクを提案する際、「その人がその人で、一番らしくいられるための、一番心地よいゴール」を大切にしていると話す。
治療には自分自身でコントロールできない部分がある一方、メイクは色や仕上がりを自分で選択できる。そうして自分自身でゴールを見つける経験も、表情や気持ちの変化につながっているという。

さらに、資生堂みらい開発研究所 主任研究員の池山和幸氏は、化粧の強みを「マイナスをゼロにする」だけではなく、「ゼロからプラスに持っていける」ことだと説明する。
外見の変化による不安を和らげるだけでなく、メイクをきっかけに人と会ったり、外出したりすることにもつながる。池山氏が行っている調査では、ヘアメイクのケアが「働き続ける自信につながった」という声も得られており、化粧がQOL(生活の質)を支える可能性について検証が進められている。
「未来の自分」へ手紙を送る新たな試み

10年目を迎えた2026年、新企画として実施されたのが「Dear Future Me ~未来の私へ~」だ。
病気や治療の副作用、不安などを抱える人に、自身の内側にある力を思い起こし、「将来の自分」へ語りかけてほしい。そんな思いから生まれた企画で、参加者は1年後、あるいは10年後の自分へ手紙をつづった。
ステージには3名のがんサバイバーが登壇し、それぞれが自身の経験と未来への思いを語った。

「診断されても人生は続く」と語り、がんとともにどう生きていくかについて思いを伝える人。治療によって顔の骨格や肌が変わり、何年も人に会いたくなかった経験を振り返りながら、少しずつ前へ進んできた自身を見つめる人。そして、「私の人生の主役は、この私」と力強く語り、これからも自分や周囲の大切な人を大事にしていきたいと願う人。それぞれの言葉に、会場からは温かな拍手が送られた。
これまでメイクと写真によって「今の自分」を映し出してきたLAVENDER RING。そこに「未来の自分」へ思いをつなぐ企画が加わったことで、活動は新たな広がりを見せている。
美容を通じて、その人らしく生きられる社会へ

LAVENDER RINGが届けているのは、外見を整える技術だけではない。資生堂ジャパン 美容戦略部 部長の戸並知大氏は、参加者の笑顔やポスターを見た人にも勇気や元気が広がり、その反応が再び自分のエネルギーになるという循環に「Beauty」の価値があると語る。
また、AIが進化する時代だからこそ、「共感、直感、体感」といった人ならではの価値も重要になるという。「肌に触れ、心にまで触れる」。10年目を迎えたLAVENDER RINGは、美容がその人らしい毎日を支える可能性を伝えている。
LAVENDER RING公式サイト:https://lavender-ring.com/






