気持ちが鬱々とする日は、気分転換に家のなかで気軽に楽しめる“香り”のリラクゼーションはいかがでしょう。日本酒、なかでも吟醸酒や大吟醸酒に多くみられる “吟醸香”には、嗅ぐと心身ともにリラックスできる癒しの効果が期待できるそうです。
写真はイメージ
これは、月桂冠総合研究所(月桂冠株式会社)が筑波大大学院 矢田幸博 教授の技術指導のもと、吟醸香の主要成分である「カプロン酸エチル」と「酢酸イソアミル」を嗅ぐと心身にどのような影響を及ぼすのか、ヒトに対する有効性評価試験において世界で初めて明らかにしたもの。
サンプルを30代~40代の女性18人に自然呼吸下で嗅いでもらい、香りを嗅ぐ前と後での感情変化(多面的感情尺度の計測)と、気分の変化(VAS Visual Analogue Scale による評点尺度法)を調査し、心理的評価として気分状態の変化および香りに対する嗜好性を、また、生理的評価として瞳孔対光反応および皮膚温を用いた試験を行いました。
嗜好性や感度など個人差がある香りの効果を数値で実証
その結果、「カプロン酸エチル」または「酢酸イソアミル」を嗅ぐと、抑うつ・不安、敵意、感情の高ぶり(活動的快)、緊張感(集中)および ストレス、欲求といった感情や心理状態が有意に低下することが認められ、生理的評価の面では、空気やエタノール(コントロール)だけを嗅いだときよりも瞳孔の縮瞳率が有意に大きくなり、副交感神経活動が優位となることが分かりました。
グラフ)「カプロン酸エチルまたは酢酸イソアミルを嗅いだ後気分は安らぐ」より
また、「酢酸イソアミル」の香りを嗅ぐと空気やエタノール(コントロール)だけを嗅いだときに比べ、皮膚温を有意に上昇させる効果が認められたことから、「酢酸イソアミル」には、交感神経活動を抑えることで副交感神経活動を高める作用があることが予測されました。
一方、「カプロン酸エチル」には皮膚温の変化が認められなかったことから、直接的に副交感神経活動を高めている可能性が示唆され、2つの香りの鎮静効果のメカニズムは異なることが推測されたそうです。
実際に“吟醸香”を嗅いでみた!
ちなみに、日本酒の香りは様々な成分で構成されており、爽やか(レモンやライム、青竹や木製など)、フルーティー(リンゴやバナナ、メロンなどの果物)、ふくよか(米、もち米、栗、落花生などの穀類)、熟成感(ナッツ、カラメル、シェリー酒など)、華やか(梅、アカシア、チューリップなどの花類)と表現され、吟醸香は“フルーティーや華やかな香り”に分類されます。
近年大ヒットし、日本酒の歴史を変えたとさえいわれる銘柄「獺祭」(旭酒造)や、パック酒の新時代を切り開いたと評価の高い「しぼりたてギンパック」(菊正宗酒造)などは、その味わいもさることながら果物や花のような吟醸香も人気の理由のひとつ。米が原料なのに果物や花の香りがするは不思議ですが、日本酒は味わうだけでなく、独特のフレーバーを感じて楽しめるのが醍醐味です。
出典)https://www.asahishuzo.ne.jp/
出典)https://www.kikumasamune.co.jp
日本酒のフレーバーなかでも吟醸香は揮発性が高く、温めたり口に含んだりせずとも低温の状態で器に注いだだけでしっかりと香ります。実際に試験用のサンプルをいただいたので、嗅いでみると「カプロン酸エチル」は甘酸っぱいイチゴやリンゴの香りが、一方、「酢酸イソアミル」は熟れたバナナの香りがしました。
写真)吟醸香の“素”「酢酸イソアミル」と「カプロン酸エチル」のサンプル
このフル―ティーな香はスイーツとの相性も抜群で、和菓子だけでなくトリュフやチーズケーキ、ドライフルーツと一緒に楽しむとより美味しさがアップ! フルーツで“日本酒サングリア”を作って楽しむのもいいですね。
写真)これぞ大人の味。チーズケーキと一緒に楽しむ日本酒に気分が和らぐ。
気分転換に日本酒風呂はいかが?
さらにおススメなのが、お風呂に入れて楽しむ方法です。注ぐ目安は湯船の広さにもよりますが、コップ2杯~3杯(約400㎖~600㎖)くらいでしょうか。筆者は湯(約180ℓ…標準的なラウンドラインのユニットバスに半分くらい)に350㎖ほど注いてみましたが、湯船を波立たせると、ほのかに漂う果実のような香りに癒され、とても温まりました。
温度が熱すぎると香りが飛んでしまうので、お湯はぬるめ(38度~42度)に設定するのがベスト。入れ始めは思ったよりも香らないと感じるかも知れませんが、時間がたつにつれて香りが風呂場に広がるので、入れすぎると不快に感じる場合もあります。好みの量を測りながら徐々に足していくといいかも知れません。
※写真はイメージ
月桂冠では、今回の研究成果を「日本酒の香りは生理的・心理的リラックス効果をもたらす」と題して「日本農芸化学会 2020 年度大会」で発表。大会実行委員会からは、「本大会で初めて公表する学術的あるいは社会的にインパクトのある内容を含む」として優秀発表に選ばれるなど、今後の研究成果にも期待が寄せられています。
また、従来の吟醸香高生産酵母の約2倍の吟醸香生産能を持つ酵母を育種するなど、吟醸香を高めた日本酒造に結びつく成果にもつながっており、同社では、これらの研究結果を感じられる商品づくりを進めていきたいとしています。
写真左から)「THE SHOT 華やぐドライ 大吟醸」、「THE SHOT 艶めくリッチ 本醸造」。カジュアルに吟醸香を楽しめる。
詳細は「月桂冠公式HP」https://www.gekkeikan.co.jp/ または特設サイト https://www.gekkeikan.co.jp/RD/keyword/ginjoka/ まで