近年、都市部に飛散する花粉が“凶悪化”しているのを知っていますか。
平成28年度に行われた東京都福祉保健局の「花粉症実態調査」によると、都内(島しょ地区を除く)のスギ花粉症の有病率は48.8%と推定され、約2人に1人が花粉症に悩まされているそうです。
一方で、花粉の飛散量が多い森林のなかで働いている林業従事者は、平均的に花粉症の有症者の割合が少ないことが明らかになっています。この差について、花粉研究の第一人者である国立大学法人埼玉大学大学院・理工学研究科の王青躍(おう・せいよう)先生は、「都市部まで運ばれてきた花粉は大気汚染物質と結びつき、花粉症を引き起こしやすくなっている」と話します。
写真)国立大学法人埼玉大学大学院・理工学研究科の王青躍(おう・せいよう)先生
都市部に飛散するスギ花粉に打つ手はないのでしょうか。先日、都内でメディアむけセミナーが開催され、凶悪化するスギ花粉の最新の研究結果と、花粉対策の新しい試みについて聞いてきました。
スギやヒノキ…花粉の凶悪化はなぜおこる?
王青躍先生の説明によると、二酸化窒素などの大気汚染物質が花粉の表面と結びつくと花粉の殻に傷がつき、そこから空気中の水分が浸みこみます。水分で膨張した花粉はやがて破裂しアレルゲンを含む花粉が飛散。爆発の際に花粉は元のサイズの30分の1ほどの小ささになり、元々のサイズであれば体内に侵入しないような花粉でも鼻や喉を通り抜けられるため、症状の重症化につながりやすくなるそうです。
さらに、爆発により拡散したスギ花粉のアレルゲンCry j2やCry j1に二酸化窒素が結びつくと科学的な変化(修飾)を引き起こし、抗体とアレルゲンがより結びつきやすくなるため強いアレルギー反応を引き起こしやすくなります。
花粉に水分が浸透してから破裂するまでの時間は4分ほど。アスファルトの多い都会では一度落ちた花粉も舞い上がりやすく、雨の日や湿度の高い日に破裂して量を増した微細な花粉たちが乾燥した後に再飛散するため、世界的にも都市部の花粉症患者数が増えているそうです。
凶悪化した花粉に有効なのは?
このように凶悪化した都市部の花粉症対策に有効な手段のひとつとして、国立研究開発法人 森林研究・整備機構と「日本かおり研究所」(エステー株式会社)が共同で研究・開発を行なったところ、トドマツの枝葉抽出物に画期的な空気浄化作用があることが発見されました。
写真)日本かおり研究所株式会社 代表取締役 金子俊彦氏
なかでも北海道トドマツの枝葉抽出物に含まれるβフェランドレン等のモノテルペン(イソプレンが2個結合した構造をもつ化合物の総称。植物の精油成分に含まれ芳香をもつものが多い)には高い二酸化窒素除去能力があり、二酸化窒素を精油ガスと混合させた実験では、約120分後に100%の二酸化窒素が除去される結果になったそうです。
この、トドマツの枝葉から抽出された空気浄化成分(香り成分)には、二酸化炭素にとりつき凝縮させ、大きな粒子を形成して二酸化炭素を無力化する性質。また、スギ花粉アレルゲンCry j1の表面をコーティングすることで花粉アレルギー性を低くする可能性。さらに、オゾンや二酸化窒素などの大気汚染物質と結びつくことで、花粉アレルゲンの毒性を抑える力など、さまざまなスギ花粉対策に有効なパワーがあることが発見されています。
空気清浄能力が高いトドマツパワーを他社とも共同研究
そんな“トドマツの香りパワー”を製品化したのが、昨年12月に発売された「MoriLabo 花粉バリアステック」です。使い方は、トドマツ精油を配合したステックを、マスクの外側(鼻に位置する部分)へ約4時間ごとに4~5回塗るだけ。トドマツ精油の“香り”によって花粉をコーティングし、マスクでは防ぎきれなかった花粉を無力化するものです。
エステーではMoriLaboシリーズをはじめとした「大気汚染低減」「抗酸化機能」「消臭効果」「森林浴効果」などに有効なトドマツ香りのパワーを活用する「クリアフォレスト事業」を2011年から展開しており、ヘルスケア分野に進出するのと同時に「クリアフォレスト」の成分や技術をオープンイ・ノベーションとして位置づけ、他社とのコラボレーションを積極的に行っています。
すでに、業務用ディフューザー(日本カルミック株式会社)や業務用空調フィルター(Daian Service Inc.)などが2018年10月より販売されており、共同開発製品には「クリアフォレスト」のロゴを入れブランドの統一を図るとともにクリアフォレストの発展拡大を目指しています。
写真右)「クリアフォレスト」のロゴマーク
3月にピークを迎え2月~5月頃まで飛散するスギ花粉。今年は、いつも花粉対策の他にトドマツの香りパワーを取り入てみてはいかがでしょうか? キリリとした爽やかな香りは気分をもリフレッシュさせてくれます。今後はトドマツをはじめ、森林の香り成分に注目ですね。