今、日本のエアコンに革命がおきています。
見たこともないデザインと機能を備えた新機種が登場し、私たちとエアコンとの新しい生活が始まる可能性を感じています。
先日、2月27日~3月2日まで幕張メッセで開催された冷凍・空調・暖房に関する国内最大級の展示会『HVAC&R JAPAN 2018』において、筆者が思わず見入ってしまうほど衝撃をうけたのが、ダイキン工業株式会社の“空間に調和するスタイリッシュエアコン「risora(リソラ)」”です。
「risora」は、「グッドデザイン賞2017」や、65年の歴史を持つ国際的デザインアワードのひとつ「iFデザインアワード2018(iF DESIGN AWARD 2018)」などを受賞しており、国内外からその性能と美しさが評価されています。
また、ダイキン工業の展示は、開催40回を記念して企画されたHVAC&R JAPANの「HVAC&Rアワード」において、来場者アンケートによって選ばれる【ベストアプローチ賞・グランプリ】を受賞しており、会場に足を運んだ多くの空調関係者やユーザーにも影響を与えたようです。
展示会では、開発にたずさわった大下奈緒子さん(空調生産本部 商品開発グループ)にお話しを伺うことができました。
新しいライフスタイルを提案するエアコン
「risora」は、空調専業メーカー「ダイキン」が次世代のスタンダードを目指す新商品です。7つのカラーバリエーションをそろえ、インテリアに馴染む形状や素材の質感などのデザイン性にくわえ、同社のハイエンドモデルの機能を搭載しています。
参照 http://www.daikinaircon.com/risora/roomaircon.html
その名の通り“理想の空間”を実現するため、幅798mm、厚さ185mmという既存のエアコンにはないサイズに驚かされます。
※「うるさら7」と比べてこの薄さ!
そもそもダイキン工業には「risora」以前に、ダイキンヨーロッパが開発し逆輸入された「UXシリーズ」(日本では2016年10月発売)というデザイン性の高いエアコンがありました。「risora(リソラ)」の開発チームは、この「UXシリーズ」の好評をうけ、薄くて小さいエアコンの開発へ方向性を明確にしたといいます。
今までにもデザインエアコンがなかったわけではありませんが、デザインを追求すると、その分性能を落とすことになり定着には至りませんでした。「UXシリーズ」は欧州発の優れたデザインに加えて、ダイキンの技術・機能がきちんと両立しており、それを超えるエアコンづくりが私達のミッションでした」
飛行機の翼に使われるシステムを採用
いかに性能を落とさずにコンパクトな空間に収めるか? それを解決するために、ファンやフラップといった気流を支える主要部品は新たに開発したそうです。 「室内機の厚みに制約があるため、従来よりもファンと熱交換器の距離が近づきます。そのため、従来のファンをそのまま搭載すると、内部で気流が乱れて耳障りな風切音が発生するという課題がありました。しかし、ファンのサイズを小さくしてしまうと、今までのような大風量は期待できなくなります」
そこで大下さんら開発チームは、ファンの連結数を従来の11連結から20連結に増やし、音の発生のタイミングを分散化させるとともに、ファンの羽根にノコギリ刃のような切り込みを入れ、空気抵抗を減らし風切音を抑制することに成功したそうです。
※新開発された「多連結ソウエッジクロスフローファン」
また、ボディがスリムなぶん「あたたかい風」と「つめたい風」、2つの気流を制御する「コアンダフラップ」と「サブフラップ」の距離が近くなるという課題が発生し、それぞれに高い断熱性が必要になったため、樹脂の厚さを0.5mmまで薄くし断熱材をサンドする構造を開発しました。
さらに、「サブフラップ」はサイズが小さくても10m以上の“ロング天井気流”を実現させるために、エアコンのフラップとしては初めて、航空機の翼に使われるスリット技術を採用したそうです。
運転中の見え方にもこだわりが!
印象的だったひとつに「risora」の可働動作があります。
可働時に空気の取り組み口の前面パネルがパカッと開くのでなく、天面の位置にぴったりとスライドするように移動し、見た目だけでなく動きもスマート。あたりまえのように見えていた吹き出し口が強調されないためか、風がやさしく吹くイメージすらします。
デザインの美しさを損なわないように、ごく自然に見えるように調整された動きは、子供の玩具からヒントを得たそうで「普段、何げなく使っているモノにヒントが隠されているものですね」と大下さんは話します。
※将来的には赤色のデザインなどバリエーションを増やし、カスタムオーダーできる展開になってゆく予定 ※現在、赤モデル販売はない。
「risora」は前面パネルの上下から空気を吸い込む構造を採用しているため、専用のモーター、ギア、アームを内蔵する必要があります。しかし、内部にパーツを配置するスペースはありません。
最終的には熱交換器上部のスペースをうまく利用し、コンパクトながらパワーがあるギアを新たに採用して解決に至ったそうで、美しいデザインを実現させるためには部品探しも一苦労です。
ナチュラルデザインのヒミツは細部に
「risora」には、従来のエアコンにありがちな“塊”感がなく、軽やかに見えます。ボディの質感がプラスチックぽくないのも嬉しいところです。
※壁に掛けられた「risora」はインテリアのよう。
「この塊感の無い“軽やかさ”こそが「risora」に求めるところでした。部屋に溶けこむように他のインテリアと調和するデザインをめざし、鮮やかすぎる色など「risora」の存在感を際立たせてしまうデザインは採用しませんでした」
しかし、何でしょう? 今でのエアコンの見た目とナニかが決定的に違う…
「リモコンの受光部をデザインのノイズにならないように底部に配置しているんですよ」と大下さん。(!)言われて気がつきましたが、パネル部分がフラットでリモコンの受光部がありません。しかし、受光部を低部に配置するとリモコンからの信号を受け辛くはないのでしょうか?
「たまたま、レーザーポインターの光をレンズに当てていた後輩の姿を見て、光をL字に曲げて受信させるアイデアを思い付きました。最終的には受光部を下方向に4mm出し、そこに光を当て上方向に反射させることで、底部でも問題なく受信できるようになりました」
部品の採用から配置まで、ゼロからレイアウトを考え直して「risora」は組み上げられています。限られた空間のなかで、数え切れないほどシミュレーションを行い、最終的に「うるさら7」の約半分というコンパクトなボディに、その機能を収めることに成功しているのです。
求められているのはオシャレで高性能な家電
ライフスタイルメディアの『キナリノ』が、358人の男女(女性10代~60代/男性10代~30代)に行なった「家電についての調査」(2018年2月)で、「洗練されていると思う家電は?」という質問をしています。
それによると、もっとも優れているのは調理家電、ワーストはエアコンという結果に。また、「購入時に価格以外で重視していることは?」という質問では、「性能・機能、デザインの両方」が最も多く、次いで「どちらかと言えば、機能・性能」が2位に。デザインが良くても、使い勝手や性能の劣るものは敬遠されるようです。
考えてみれば、エアコンには、なぜカラーバリエーションが少ないのだろう? どうして画一的なデザインしかなかったんだろう……「risora(リソラ)」を目の前にすると“新しい発見”や理想のライフスタイルが次々と浮かびます。
しかし、その開発の裏でデザインと性能を両立させることが、いかに大変でチャレンジングなことか、さまざまな気づきのある取材となりました。「risora(リソラ)」は2018年3月30日より、各家店舗で販売予定です。※各店舗によって主要取扱パネルと受注生産パネルの種類が異なります。
協力いただいたダイキン工業株式会社の大下さん、ありがとうございました。