良い物があるとつい衝動買いしちゃうんだよね、とはある知人の口癖。先日、ノーベル経済学賞を受賞して注目された行動経済学では「人は合理的な行動ができない」という考え方があるそうなので、仕方ないこととは思うが、それでも衝動買いばかりを続けていたら、お金はいっこうに貯まらない。
年末のセール時期になれば、財布のヒモは緩くなり、ますます出ていくだけだ。いったいセール時期のお店には衝動買いを誘う、どのような罠が仕掛けられているのだろうか?
「定価50%オフ」の定価表示は果たして本物?
セールになると「定価50%オフ」という値引きシールをよく見かける。あればついつい浮かれてしまうが、ちょっと待ってほしい。本当にその商品、お買い得だろうか。たとえば、定価が本当に定価として売りに出されていたのかどうかは疑うべきだろう。
定価12,000円が6,000円であれば、たしかにお買い得だが、じつはセール専用品として定価8,000円の品物が“釣り”として店頭に並んでいたら……。この場合、値引率は50%ではなく25%。お得と思ったのが一気に損した気分になってしまうだろう。
「間を取ろうか」が格好の餌食な理由
いま使っている掃除機も古いし、そろそろ新しく買い替えよう。予算は3万円。店頭には「9,980円、19,980円、29,980円」の3つの品物。さて、このような状況に置かれた場合、統計的には真ん中の品物が好まれるという。これは「極端の回避性」ともいわれ、同じような価格帯が並んだときに、人は真ん中の価格を選んでしまうクセがあるというものだ。
安すぎるのは機能的に不安だし、予算ギリギリは失敗すると損だ。だから真ん中が機能的にも損せずちょうどいいだろう……。自分では合理的に考えたつもりで買い物をしてしまうのがミソだ。だが、売り手がこうした心理を知っていて、売りたい商品を真ん中の額に据えているとしたら、すでにあなたは格好の餌食にされている。
売り手にも都合のいいサービスとは
自分が所有しているものに価値を感じやすい心理を、「保有効果」という。これはダニエル・カーネマンという行動経済学者が行ったコップの実験が有名だ。大学生をランダムに2つに分け、半分にはマグカップをプレゼントし、もう半分の学生には何もプレゼントしなかった。
そして、前者には「マグカップをいくらで売るか」、後者には「いくらだったら買うか」と尋ねて平均値を出すと、前者が7.12ドル、後者が2.87ドルと2.5倍の差があったという。「愛着がわく」という言葉通り、「自分の物」と思った瞬間に、人は手放しづらくなるのだろう。
この心理を知れば、一見親切そうなサービスもじつはただ買ってもらうだけのサービスという見え方ができる。たとえば、巷でよく「試着無料」「返金自由」「お試し期間中返品可」という文句を見かけるが、これらは一見、消費者思いにも見えるが、じつは商品を買ってもらいやすくするキラーフレーズでもあるのだ。
消費者の多くは、「衝動買い=自分の判断で買った」と思い込みがちだが、その多くは意図的に仕組まれて買わされているということをゆめゆめ忘れてはいけない。