テレビ朝日「ワールドプロレスリング」が、2020年4月よりBS朝日で『ワールドプロレスリングリターンズ』とタイトリングされての放送が決まった。地上波ではないが金曜日夜8時のゴールデンタイムへ復活するのはプロレスファンにとってかなり嬉しいに違いない。「ワールドプロレスリング」がゴールデン枠に戻るのは約32年ぶり、いわゆる“金・八”に戻るのは1986年9月以来約34年ぶり、となる。
ちなみに「ワールドプロレスリングリターンズ」は、テレビ朝日土曜深夜で放送されている30分番組「ワールドプロレスリング」の拡大版となり、地上波で放送されなかった試合や、カットになった部分なども放送する。放送時間が1時間になったことで白熱したファイトがより長く、またより多くの選手の活躍が楽しめるというわけだ。
【特報!】
— 新日本プロレスリング株式会社 (@njpw1972) February 9, 2020
4月からBS朝日の金曜日8時枠にて『ワールドプロレスリングリターンズ』放送を記念して特別キャンペーン開始!
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逆境からの人気復活
2000年代に入ると、K-1や総合格闘技の人気に押され、またそれに参戦したプロレスラーの多くが負けたことも影響したかプロレス全体の人気が下降。新日本プロレスもその波に呑まれ、毎年の目玉である1月4日東京ドーム大会もアリーナすら満員にならない自体に陥ったため中止が検討されるほどだった。
‘12年に親会社ブシロードの傘下に入り、派手な広告やネットを利用したPR戦略を打ち出すと変化が現れ、また棚橋弘至やオカダ・カズチカといったスター選手が育ったのも追い風で経営は回復、年間売上10億円だった最低期から再建し2018年には49億円の最高売上高を記録した。
日本での人気、特に女性からの支持が高いこともあるが、2014年からスタートした有料動画配信の伸び率が高く、その会員数は世界で10万人。今やアメリカのプロレストップ団体WWEを凌ぐほどの人気ともされる。
海外ファン獲得の鍵は真剣勝負?
私の主観だが、WWEはリング外もリング上も基本がシナリオ通りなのでプロレスショーを見ている感じ。マンガの世界観が出ていてスポーツ・格闘技を見ている感覚が遠い。まあ、本格格闘技を見たいならUFC等を見ればいいのでそれを否定するわけではない。要は、アメリカ人にはそういうわかりやすいエンタメがウケるわけだ。
逆に新日プロが海外のプロレスファンに気に入られたWWEとの違いは、特にタイトルマッチレベルになると“ガチ”であることが伝わるからではないか。
日本のプロレスにも、お客さんを楽しませるために考えたある程度のシナリオは用意されている。それは八百長と呼ぶのではなくショーと受け取って欲しい。「全ての試合が真剣勝負だとお客さんも疲れちゃうじゃないか」とはG馬場さんの言葉だが、ウルトラマンも登場して直ぐに必殺技を出して怪獣を倒したらつまんない…それと同じ。新日が海外で人気になったのは、魅せるショー要素を含めながら最後は真剣勝負である(という試合がわかる、そんな試合にうまく見せている)、ここがポイントな気がする。
大技、必殺技を出し合って、本当に相手を立てなくするくらいまで闘う。試合が終わるとお互いヘトヘトで、試合後は握手を交わし敗者が勝者の腕を上げて称えることもある。この全てがシナリオ通りだったらレスラーにオスカーをあげたいくらい(笑)。
ここにスポーツの醍醐味、格闘技が本来持つ勝負の世界がある。それが海外のファンにとって衝撃的で「感動」を呼んだのではないだろうか?
――――― そして約34年ぶりのテレビゴールデン枠復活である。
「ギブUPまで待てない!!」でのハプニング
日本プロレス時代の1969年から、テレビ朝日(当時NETテレビ)が「NETワールドプロレスリング」として放送スタート。最初は水曜夜9時放送だった。
1972年から金曜夜8時枠へ移動し、1973年にアントニオ猪木が旗揚げした新日本プロレス興行を放送する運びになる。
猪木の異種格闘技戦を皮切りに、’80年代に入ると、四次元殺法タイガーマスクの登場、古舘伊知郎アナの過激な実況、世界統一IWGPタイトルの設立、革命戦士・長州力、UWFとの抗争・・・といった具合に次々にファンを熱くさせる展開を繰り出し人気は安定していた。
1986年10月から月曜夜8時枠へ移動。この枠は半年だけだったが、実はここまでプロレスは生中継が基本だった。そして名物アナだった古舘伊知郎が実況を退くこととなる。
1987年4月には火曜夜8時枠へ移動、「ギブUPまで待てない‼ ワールドプロレスリング」とタイトルをリニューアルし、録画した試合をスタジオで観るという形式に変わった。いわばスポーツ&バラエティという新しい試みだったがこれがちょっと裏目に出てしまう。
メインパーソナリティが山田邦子で、ゲストを交えながら試合のVTRを見たり、トークしたりという展開。ところが視聴者からは「試合をもっと見せてほしい」という要望が多く、試合の途中に山田の表情を画面に映すといった演出は「いらない」と反感を買った。山田もあまりプロレスには詳しくなくて、しかも芸人なので笑わそうとしたり、気の利いたことを言ってみても、画面からは空気がマッチしない変な臭さが漂っていた。
これがテレビ放送を見たレスラーからも、「まともな感想を言ってほしい」「プロレスが笑われている気がする」などと不評。
そんな中で、コアなファンには有名なハプニングが起こった。当時の人気上昇中だったレスラー馳浩(現国会議員)がスタジオにゲストで登場し山田の隣に座った。馳の表情は何故か最初から険しい。その冒頭で・・・
山田「(試合中の流血などで)控室などで、あの、血って簡単に止まるものなんですか?」と質問した。すると
馳「つまんない話聞くなよ、止まるわけねえだろ」
しかめっ面でまくし立て一瞬その場が凍りついた。確かに質問も質問だが馳もそこまでキレなくてもいいのに…。山田は苦笑いするしかなく進行役のアナウンサーがさらりと場を流したが、見ていた誰もがハラハラした。番組スタッフによると山田はこの後かなり落ち込んだらしくレスラーに対するトラウマができたとか。
番組の視聴率は10%に満たないケースも増えて1年半で終了。’87年10月からは従来の放送スタイルで月曜夜8時枠へ移動したが、プロレス人気にも陰りが出て‘88年にはゴールデンタイムから撤退し、主に深夜帯での放送となってしまった。
歴史ある「ワールドプロレスリング」、時代は一回りしたのか人気再燃の昨今、長らくプロレスから遠ざかっていたオールドファンも、今のプロレスを是非見てほしい。
生の迫力はすごいぞ!
実は去年、10年ぶりくらいにプロレスを生観戦してきた。新日は24年ぶり(‘95年10・9東京ドーム以来)。物販やモニター設置などファンサービスは行き届いていた感じがするし、女性のお客さんが多かった。どこの団体だっていい、一度会場で生のレスラーの凄さを感じてほしいものである。
「愛してまーす!」棚橋弘至