たった一枚の写真に、これほどのドラマがあるとは驚きました。
東京都写真美術館(東京都目黒区)で6月から8月6日(日)まで開催されている「世界報道写真展2017」。7月3日はゲッティ イメージズのフォトグラファー、アダム・プリティによる特別プレスツアーが行われました。
「世界報道写真展」は、世界各国125の国と地域から約5,000人のプロフォトグラファーが参加。集まった約8万点の報道写真から、8部門45人の受賞作品を紹介しています。
アダム・プリティはオーストラリアの報道写真家としてキャリアをスタート。1998年、ゲッティ イメージズに入社すると、オリンピック6大会の撮影に関わるなどして、数々の賞を受賞した世界的に有名なフォトグラファーです。同展ではスポーツ部門の審査員として参加。選考秘話や写真が伝えるテーマなどを解説しました。
組写真3位 ダレン・カラブリーズ
生れながらにして手足を持たないカナダ人女性を追った4枚の組写真です。彼女は高強度のインターバル・トレーニング「クロスフィット」に取り組んでおり、ハンデを感じさせないトレーニング風景が切り取られています。右下はラグビー観戦中に知り合ったボーイフレンドとの1枚。
組写真1位 ジョバンニ・カプリオッティ
ゲイを中心としたラグビーチームの日常に迫った組写真です。同チームはラグビーのような男性的なスポーツにゲイが不向きである考え方に異を唱え、固定観念を打破するために誕生しました。チームメイトありパートナー同士のキスが印象的です。
このような写真に対しアダムは「どちらもライフスタイルを表現した写真だが、身体的問題やコミュニティにおいて苦労している。こう言った社会問題を提起したところが評価できる」と話します。
また、アダムは「被写体のエモーションやその背景にあるストーリーを表現することが、今年のトレンドだ」としました。
単写真1位 トム・ジェンキンス 単写真3位 カイ・オリバー・プファッフェンバッハ
右が単写真1位の受賞作品。競走馬による障害レースの競技中に起きた落馬の瞬間を捉えた写真です。「普通と全然違う、カオスでユーモラスな1枚」とアダム。
左は陸上界のスーパースター、ウサイン・ボルトがレース中にも関わらず後ろを振り向き笑顔を見せた一瞬を収めています。その顔がはっきりと分かるフォーカスの差で受賞に至りました。
アダムは「ソーシャルメディアで盛り上がったのも受賞理由の一つ」とし「(展示の報道写真は)世界で何が起きているかを知るバロメーターにもなっているのではないか」との見解を示しました。
単写真2位 キャメロン・スペンサー
「なかなか撮影できないアクション写真。影や着ているユニフォームの色彩など、全てがパーフェクト。こういった写真を私も撮りたい」とアダムが話すように、首筋に見える筋肉の緊張に至るまで躍動感を伝えてくれる写真です。
これは2016年、オーストラリアで行われたテニス全豪オープン4回戦。フランスのガエル・モンフィスがダイビングフォアハンドでボールを返す、0コンマ何秒の世界を写しています。
このシーンは同じような写真の応募があり、受賞作品の方がわずかにダイビングしている位置が高く、ボールがラケットに近いことがポイントになったそうです。アダムは「プレーしている選手だけでなく、フォトグラファーも戦っている」と述べました。
胸を締めつけられるショッキングな写真も
スポーツ以外の報道写真も数多く並ぶ同展。密猟により角を抉られて死骸になったサイや、漁網にかかって泳げずにいる絶滅危惧種のアカウミガメの写真などが掲出されており、地球環境や生き物との共存について考えさせられます。また、サイの角を抉り取った容疑者の写真まであることに驚愕しました。
死体は動物に限りません。アフリカの難民が、少しでも良い暮らしを求めてヨーロッパへ海を渡る最中を捉えた写真もありました。難民は救命胴衣もなく、航海に不向きな小さな船にすし詰めにされることも。
窒息死した家族を目の前に泣き崩れる男性や、救命胴衣を着用したまま息絶え、地中海を漂う遺体の写真もあります。
真実を伝える写真は、時には興奮させ、時には考えさせられる物語を持っています。