現代病の代表といわれている喘息(ぜんそく)や花粉症などのアレルギー疾患。今回は、そのアレルギーと呼吸器治療の第一人者ともいわれている医療法人社団HARG 広島アレルギー呼吸器クリニック 統括院長の保澤総一郎さんに、20年前に開業した背景や仕事観についてお話を伺った。
本クリニックは、喘息や花粉症アレルギー性の咳などの、アレルギー疾患の治療を行う医療サービスを行っている。まず保澤さんは現在、どのような治療を行っているのかを話してくれた。「喘息の診断がきちんとできれば、その状態がわかります。喘息には二大病態があります。一つは気道の炎症、もう一つは気管支を取り巻いている平滑筋の収縮です。
検査結果から、どちらなのかを診断し、炎症を抑える炎症療法もしくは、気管支を広げる治療を行います。これらが喘息の根幹となるスタンダードな治療方法です」。また、ポイントとして「患者さんごとに見合った治療を行うこと。そして患者さんに治療方法等をきちんと説明して、治療を続けていただくというのが大事だと思っています」と保澤さんは述べた。
そんな保澤さんは、この専門分野へはどのように行き着いたのか。その理由として「メスが入らない内科分野への興味」「幼少期からのアレルギー症状の経験」「横隔膜より上の部位への興味」の3つを挙げた。これらの背景から、呼吸器のアレルギー分野の勉強を志したという。
では、現在の広島アレルギー呼吸器クリニックは、どのような経緯で開設に至ったのか。およそ20年前の開設当時、マツダ病院 呼吸器・アレルギー科部長を務めていた際に、保澤さんはアレルギーの専門クリニック開設を志した。しかし周囲から反発や心配の声が挙がったという。というのも、今では当たり前のように全国各地にアレルギー専門クリニックがあるが、当時は一つもなかったからである。開設しても患者もそれほど来ず、経営的にやっていけないのではないかと、先輩たちは心配に思ったのだ。
それでも保澤さんは、2つの思いから開設を決意した。一つは「これまで診療を続けてきた中で、喘息の患者が非常に多くなっていると感じている」こと。もう一つは、「喘息患者の治療継続が問題になっている」ことだ。「きちんと治療続ければ、普通の生活ができる疾患なので、続けることができないのは非常にもったいないことです。
そこをなんとかしたいという思いが強かったのです」と保澤さんは話す。そうした中、「失敗してもいい」という覚悟の上で始めたのが本クリニックだった。そして、その覚悟は実を結び、多くの患者が詰めかけるクリニックとなった。そして今では、それに倣うように、全国各地にアレルギー・呼吸器クリニックが存在するまでになった。まさに保澤さんはこの分野のパイオニアとなったのだ。
そんな保澤さんの兄貴分的な存在であり、今でも交流があるという近畿大学病院 病院長の東田有智先生は、保澤さんのことをどう見ているのだろうか。東田先生は、広島アレルギー呼吸器クリニックでは、肺機能の検査が可能であることから、治療に必要なデータがそろっている点を評価する。この検査は手間がかかることから大学病院でも対応しているところが少ないそうだ。加えて、患者数の多さも評価しているという。
こうした信頼もあり、東田先生は随時、保澤さんに新薬の治験依頼も行っているという。「特に治験は、きちんと患者を診ていないとできるものではなく、結果も変わるものです」と東田先生は付け加える。
最後に、保澤さんにとっての仕事とは何かを尋ねた。すると保澤さんは「患者のために研鑽を続けること」と回答した。そして「私にとって仕事とは、患者さんのためにというのがまず一番。ただ患者さんのためにと思っても、自分がそれなりのもの持っていないと、そうなりません。そこで、そうなるように自分を見つめ直して、いつまでも磨いていくこと。それが結果的に患者さんのためになる。だからこそ、自分の研鑽をしっかり続けていくというのが、私にとっての仕事です」と締めくくった。