「はい、論破!」とは、木下ほうか演じるイヤミ課長のセリフだ。当時、流行語大賞にもノミネートされるほど多くの共感を集めたセリフだったが、実際、働いていると、このように相手を理屈だけで畳みかけようとする輩は非常に多い。
相手に行動を見直してほしくて、説得しようとするのは間違いではないが、伝え方を誤ると、揉める原因になってしまう。正しいことを伝えたのに、相手を怒らせてしまったという事態にならないためには、いったいどんなことに気をつければいいのか。
理屈だけで人は誤りを見直さない
これはすべての人に言えることだが、相手の言うことが必ず正しいからといって、人は自らの誤りを見直すようなことはしない。なぜなら感情が邪魔をするからだ。人の揚げ足ばかり取るような先輩に「君の考えは間違っている。なぜなら~」と説明されても、素直に耳を貸せないのと一緒だ。
「言っていることはわかるが、従うのはイヤだ」と反発したくなる。それゆえ理屈だけで相手を説得しようとすると決まって揉めてしまうのだ。さらにいえば、相手にも自分が正しいとする理屈がある。結局は水掛け論となり、お互いに溝ができてしまうのだ。
大事なのは「掛け算」
では、どうやって、相手に誤りを自覚してもらい、見直してもらうべきか。理想は「理屈×感情」の掛け算だ。どんなに論理的で、間違いがない主張だったとしても、相手が聞く耳を持ってくれなければ意味がない。まずは、相手の感情の壁をなくすことが大事なのだ。
つまり、「この人の言うことなら聞いてみようか」と思わせること。たとえば、好きな異性にいきなり告白する人がいないように、まずはお互いの心の距離を縮めておくことで、「この人がこんなにも言うなら見直してみようか」と思わせなければならない。
共感とは「相手の懐に入ること」
話が上手な人はこうした「理屈×感情」の掛け算がうまい。交渉事やお願いごとをするときには相手の心に響くように見事に話す。たとえば、若手議員の中でも存在感が強い小泉進次郎は選挙時、候補者の応援演説に行くと、方言を交えたり、地域の名物の話を出したりと相手の感情に響くフックをたくさん用意している。自分の言いたいことだけをしゃべることは絶対しない。
相手の懐にグッと入り込み、そのあとに話の肝となる話題を出す。こうした方法はビジネスでも大いに使える。相手が何を考えているか、お互いの共通項を探すクセをつけておくと、交渉事やお願い事がスムーズにいくだろう。
共通項探しは日頃から
こうした話をすると、「そんな簡単に共通項なんて見つからない」という声が飛んできそうだが、それは単に日頃のコミュニケーション不足だろう。デキる人ほど、何気ない会話を大事にする。相手が仕事で何を大事にしているか、趣味は何か、プライベートのことも心得ている。
もし、職場に顔を合わせるたびに揉めてしまう人がいるのであれば、もっと相手のことを知るべきだ。どんなことに喜び、何に対して怒るのか。それを知ってからでも交渉するタイミングは遅くはないだろう。