大量に生産されたアパレルの余剰在庫やその処理に関する問題が浮き彫りになるなか、今、世界から注目されている繊維素材があります。その名もトウモロコシから生まれた「HIGHLACT®(ハイラクト®)」。ファインケミカルを中心とした化学品の輸出入販売やOEM製造を展開する「ハイケム株式会社」(以下ハイケム)が開発したものです。
先日、東京ビッグサイトで開催された「エコプロ2022」では、「HIGHLACT®」素材を使用したサステナブルファッションの展示やファッションショーをはじめ、YouTube登録者39万人を超すメンズファッションインフルエンサーで、200万部を超えるベストセラー作家でもあるMB氏が登壇。トークセッションが開催されました。
写真左)「ハイケム」のサステナベーション本部長の高裕一取締役と、右)MB氏。
日本の匠の技と化学が融合
トウモロコシ由来のPLA(ポリ乳酸)から誕生した「HIGHLACT®」は、一定条件下で二酸化炭素に分解される生分解性を有しており、製品の使用後は自然に土へと還る理想的なサイクルを実現できます。また、トウモロコシなどのバイオマスを使用しているため植物の育過程でCO2を吸収しており、焼却しても大気中のCO2は差し引きゼロになるカーボンニュートラルな素材です。
元来PLAは、既存のプラスチックと比べて強度が低く、耐熱性も低いことから繊維には不向きな原料とされていましたが、「HIGHLACT®」はハイケムの培ってきた技術力や日本の伝統的な織物や染色技術の融合により、耐久性に優れ、PLAでは出せなかった色彩や風合いが楽しめる新素材として誕生。乳酸を原料とするため天然の抗菌性も有しており、近年繊維素材として注目を集めています。
写真)「HIGHLACT®」100%のTシャツが分解する様子。3日後の引き上げ時の堆肥温度は68℃、水分量は50%前後。
写真)「HIGHLACT®」の下着と靴下(試作品)。触り心地がよくなめらか。軽い。
ハイケムの高裕一取締役はトウモロコシに着目した理由として、発育の過程でCO2を吸収しているためカーボンニュートラルな性質があることを挙げ、破棄の際にCO2の発生を少なくすることができると話し、“気兼ねなく捨てもいい服”という逆転の発想を提案します。
洋服の生産・輸送・販売・廃棄といったサイクルのなかで、輸送時以外にCO2を削減するためには、廃棄のさいに出るCO2を極力抑え、環境破壊を進ませないこと。トウモロコシから誕生した「HIGHLACT®」であれば、原料製造時のCO2発生量はポリエステルの1/7となり問題解決の一助となります。
MB氏は「サスティナブルを意識しなければいけない時流のなか、企業やメーカーが率先して音頭をとることでムーブメントは生まれる」と話し「サスティナブルはスタイリッシュで恰好の良いものという価値観が大切。「HIGHLACT®」のような生地自体がサスティナブルということも“かっこいい”を育てるために必要不可欠」と訴えました。
エコ素材、とりわけ生分解性プラスチックの使用に関して中国では法整備が進んでいる他、ヨーロッパでも関心が高く、日本の技術力を取り入れることでデザインバリエーションも増やすことが可能になるため、今後、高級ブランドでの積極的な展開などが期待できます。
写真)カラフルに染められてデザインされた「HIGHLACT®」のドレス。なかでも黒の発色が美しい。
一方で高取締役は、一部の高価格帯ブランドや商品のみで「HIGHLACT®」を展開してもエコとは言えず、コモディティ化することで初めてサスティナブルになる。中価格帯のアパレルメーカーが多い日本市場が意識をして取り入れれば価値観が動く」と考えており、現状PLAはポリエステルなどに比べ値段が高いため、ハイケムでは「いずれは同じくらいの値段に下げられれば」と目標を定めています。
微生物の働きにより水と二酸化炭素に分解されるトウモロコシ由来のPLA繊維「HIGHLACT®」。今後、さまざまなアパレルブランドから、「HIGHLACT®」によるファッション性が高くサスティナブルな洋服が誕生することを期待したいですね。詳細は https://highlact.com/ まで。