iPhoneでは2017年モデルから「Face ID」と呼ばれる顔認証システムを導入しています。しかしコロナ禍では「その度にマスクを外しての認証は面倒!」ということで、今年5月にアップデートされたiOS 13.5の最新デベロッパーバージョンには「Face ID」がマスク装着を認識した場合、パスコード入力画面に移行する機能が追加されました。
今後、マスクを装着していても顔認証するシステムの導入が検討されているという噂も聞きますが、もし本当ならば、その精度はどれだけのもの? 本人と識別されなかったり、顔が隠れているのを良いことに、なりすましにアンロックされたりする危険はないのでしょうか。
そこで今回は、AI顔認識エンジン「FaceMe®」の開発を手掛けるAI 顔識別技術の世界的リーディングカンパニー「サイバーリンク株式会社」のセールス デパートメント バイスプレジデント 萩原英知さんに顔認証システムの現状や未来について伺いました。
写真)萩原英知氏。お忙しいなかインタビューに応えていただきありがとうございました!
コロナ禍により身近になった顔認証システム
― iPhoneのマスク検出機能を利用した「Face ID」解除の仕方が話題になっていますが、逆にマスクをしたままで本人であると認識できるのでしょうか?
もちろんできます。一般的にマスクで隠れてしまっている部分を推測するのは難しいのですが、例えば弊社の「FaceMe®」は目の周りや眉毛など見えている部分を集中的に解析し、より精度を高めてチェックするAIエンジンを持っているので、顔写真を1枚登録すればマスクをしたままカメラを意識せず通り過ぎた状態でも登録者本人と認識できます。
出典)https://jp.cyberlink.com/
― コロナ禍により、このような顔認証システムが身近になったと感じますが、特にどのような場面で活用されはじめているのでしょうか。
非接触型の生体認証の必要性ですよね。顔認証はハンズフリーであり、さらにマスクの取り外しも必要ないとなれば手間が省けるのはもちろん衛生的でもあります。
すでに運用されている「FaceMe®」の実用例では、企業など出退勤時に検温をかねてログを残すことで社員や職員の健康チェックと出退勤の管理ができるシステムがあります。顔認証と同時に打刻されるなど、出退勤のシステムと連動させればタイムカードやIDカードが不要になります。
他には、資格試験などをオンライン化する際に、登録者と実際にオンラインでテストを受けている人が一致しているかなど、いわゆる“替え玉”不正が起こる可能性を防ぐ確認も顔認証システムで応用することができます。
― 親子で入れ替わるとか、色々とズルができなくなりそうですね…
よく骨格の似た親兄弟でも違いを検知しますし、双子についても設定条件を厳しくすることで違いを判別できます。資格といえば、資格が必要な重機や特殊機械などは、資格取得者本人の顔認証がカギとなって操作ロックが解除されるなど、従来に比べ厳重な管理ができるようになります。きちんと管理しようとすると膨大なコストや煩雑な手続きが必要だったものが、比較的にスムーズに行えるようにもなり、顔認証は用途に応じてさまざまな工夫をすることで、幅広い環境下で不正防止に役立てることができます。
― 免許証を常備しなくてもよいかわりに、更新し忘れたら、その瞬間からエンジンがかからなくなるみたいなことも考えられますよね…他人になりすますとして、写真や動画で顔認証を誤魔化せないでしょうか?
お面をつけたり写真をかざしたりしてもダメです(笑)。「FaceMe®」にはなりすまし防止のシステムが組み込まれていて“人らしさ”を検知できます。静止画では皮膚が動かないでしょう? ビデオ映像にはビデオ映像の特徴があるのですぐに分かります。
その他、一般的に本人確認をする方法としてマイナンバーカードやパスポート、免許証などの写真以外に、画面のランダムな指示に従って顔を動かすなどeKYC用途で使用されるような本人確認手続きがあり、すでにオンラインでの銀行手続きやスマホ決済などで実用化されていますよね。
― 他人のふりで顔認証システムを騙すのは難しそうですね。その他、私達の生活に関係しそうな身近なサービス例はありますか?
未来においては接客窓口などの無人化の可能性も広がります。例えば、ある地域内で登録されている顔であれば公共交通機関や施設などの利用が顔パスになるなど、免許証やマイナンバーカードがオンライン化されればオンラインデータとして残るので確認作業は簡単になる可能性があります。
それから、監視カメラの顔認証システムを利用し、混雑が一定の密度を超えると“密”にならないようにアラートが鳴るといった人の距離を測るソリューションも開発されています。
最新AI顔認識エンジン「FaceMe®」はここが凄い!
― 「FaceMe®」の強みを教えてください。
弊社はもともとパソコン用のビデオ編集ソフトやビデオ再生ソフトなどを開発していた会社で、AIによる顔認証のエンジンの開発に携わるようになってから2、3年になります。人やモノをテロップが追いかけるオブジェクトトラッキングなどのビデオ編集技術や、映像に関わる技術などが顔認証エンジンの開発に役に立ったわけです。
「FaceMe®」の強みは、小電力で動くことでIOT用エッジデバイスやクラウドなど色々な環境に対応できることや、認識速度が速いことなどがありますが、特にお客様に評価いただいているのは“角度”の広さです。左右60度前後(国内他社平均は40度前後)、上下は30度までの広い角度での顔認識が可能です。通常、監視カメラは斜め上にあるので人は基本的に下を向いた状態で映りますから、そこをしっかりと認識できる性能をご提供できます。
― これから「FaceMe®」をはじめ顔認証システムを活用したサービスが増えていきそうですね。
市場という点であれば、ここ1、2年は特に盛り上がっていくのではないでしょうか。大切なのは、顔認識したその先にどういうサービスを提供できるのかを見据えて開発しなければいけないことです。
弊社の開発コンセプトは「身近で使いやすいこと」なのですが、デジタルサイネージ、スマートロック、教育関連などさまざまな企業様と連携することで、思わぬ画期的な新サービスが生まれることがあり、そんな部分をどんどんと開拓できたらいいなと思います。
もしかしたら、近々『ドラゴンボール』に登場するスカウター※みたいなものをお披露目できるかも知れません。※スカウター:通信機能と生体探索機能を兼ね備えた装置で“気”を感知し戦闘力を計測できるモノクル型のメカ。
― フリーザ一味が持っていたあれですか?!
戦闘能力の数値化は無理ですが(笑)。ごく身近なある場所で個人を特定するシステムとして活躍すると思います。デモ機はすでに実装済みで…(企業秘密なのでここから先は掲載NG)…なんです。
― これは画期的! それが導入されれば、ある問題がスムーズ解決しそうですね。
その他にも、さまざまなプロジェクトを進めていていますが、来年の夏頃には多くの場面で本格的に活用されていくのではないでしょうか。