たんぱく質は、私たちが生きるうえで欠かせない3大栄養素のひとつです。
身体の構造をつかさどるケラチンやコラーゲンをはじめ血糖値を下げるインスリン、免疫をつかさどるグロブリンなど、運動・防御・調節・輸送・貯蔵などのあらゆる機能に関係し体重の約5分の1を占めます。
たんぱく質は体内で作り出すことのできない9種類の必須アミノ酸と、体内で作り出すことのできる11種類の非必須アミノ酸で構成されており、消化過程においてアミノ酸に分解され体内に吸収され再合成されます。
こんなにも重要なたんぱく質ですが、日本女性の1日のたんぱく質摂取量は年々減り続けており、原因は麺類・パンなどの手軽で安価な炭水化物を食べる機会が増えたことや、過剰なダイエットなどが影響しているのではないかと考えられています。
そんな現代人のたんぱく質不足について、先日、キューサイ株式会社が主催するセミナー『たんぱく質の賢い摂り方~植物性・動物性の同時摂取の可能性~』が開催され、たんぱく質不足の影響や最新の研究結果などが発表されました。
写真)伊藤朋子先生
国が推奨する摂取量では不足しがち
赤坂ファミリークリニック院長であり、東京大学医学部附属病院の小児科医師、
東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学/健康医療政策学教室 客員研究員の伊藤朋子先生は、国が発表しているたんぱく質の1日の必要摂取推奨量50gでは足りないと警鐘を鳴らします。
推奨量はあくまで病気にならないギリギリの量であり、体内に蓄えておくことのできないたんぱく質は、この量を目指して摂取すると不足傾向になります。早いものだと食べてから3分後には分解代謝の流れにのってカタチを変えてしまうそうで、私たちが(昨日、食べすぎたかも)と思いがちな焼肉でも次の日の朝には枯渇している状態なのです。
実際に、赤坂ファミリークリニックの患者1000人以上に食事の聞き取りと血液検査を行ったところ約1割の患者に低タンパク血症の症状が見られたそうで、普段、食事や健康に気を使っているつもりでも意外に摂れていないのがたんぱく質なのです。
たんぱく質が足りないと何が起こる?
たんぱく質量が低下すると年齢に関係なく20代でも疲労・冷え・傷がなおりにくいなどの症状が表れることがあります。その他、皮膚や髪の毛などの劣化・シミ・しわの原因や、最近では毛細血管が衰えて幽霊のように消えてしまう“ゴースト血管”の原因のひとつとしても挙げられています。
また、アミノ酸が材料になっているドーパミン・セロトニン・メラトニンなど神経伝達物質(脳内ホルモン)はたんぱく質が不足することで、よく眠れない、気分がふさぎ込むなどのメンタル面に影響します。朝食でたんぱく質が十分に摂れている人は、周囲の人と円滑なコミュニケーションがとれ他人を許容する範囲が広いといった実験結果※もあるそうです。
※strang et al.,PNAS June,2017;.1620245114
たんぱく質の適切な摂取の仕方は?
質の高いたんぱく質をとるには何を食べたら良いのでしょうか。肉には多くのたんぱく質が含まれていますが、脂質やコレステロールのとりすぎに注意する必要があります。しかし植物性たんぱく質のみでは足りません。例えば豆腐のたんぱく質量は8%に満たず、かなりの量を食べる必要があります。
もっとも効果的なのは、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質をダブルで摂取することであり、伊藤先生は必須アミノ酸がどれだけ摂取できるかが基準となる「アミノ酸スコア」の高い動物性たんぱく質と植物性たんぱく質をバランスよく混ぜて摂れる伊藤流「ダブルたんぱくレシピ」を紹介しました。
□シリアルにアーモンドとすりゴマを加えた「簡単プロテインシリアル」。
□卵に豆乳ときな粉をまぜた「きなこ入り豆乳オムレツ」。
□豆乳と味噌をベースに鶏ひき肉団子、豆腐、白身魚、ネギや豆苗などの野菜を入れた「たっぷりたんぱく鍋」。
□プロテインパッケージとしても優秀な鯖と、ネギ、キムチ、絹ごし豆腐、しいたけ、海老、卵黄などを煮込んだ「サバ入りプロテインスンドゥブ」。
動物性たんぱく質の卵・鶏肉・鯖と植物性たんぱくの豆乳・きな粉・豆腐などを掛け合わせ、栄養の高さだけでなくバラエティに富んだ素材が美味しい献立になっています。手軽に作れるのも魅力的ですね。
たんぱく質は、1日に必要な量は60g以上であり高齢者は75g~90g以上を摂ることが望ましいのですが、せっかく摂り入れても体内でたんぱく質合成が誘導される摂取量に満たないと体外にすべて排出されてしまうため、一定の量を朝・昼・晩と摂ることが大切になります。
また、長年たんぱく質の解明研究を進めてきた神奈川工科大学応用バイオ科学部栄養生命科学科 非常勤講師 佐々木一先生は、「効果的なのは運動後の30分~1時間以内にたんぱく質を摂取することだが、運動後のすぐの食事は難しいためプロテインサプリメントを飲むのが有効」と説明します。
写真)佐々木一先生
超高齢化に備え!筋肉量を支えるたんぱく質に注目
人は年齢を重ねると筋肉量が減少し、それに伴い基礎代謝や身体機能も低下するためより多くのたんぱく質摂取量が必要になっていきます。なかでも、分離乳清たんぱく質(ホエイ…ヨーグルトの上澄みの液体など)や大豆たんぱく質は骨格筋たんぱく質の合成を促進させるそうです。
JAXAと共同で筋肉の細胞を宇宙に打ち上げ、筋萎縮の仕組みについて研究している徳島大学 大学院医歯薬学研究部 生体栄養学分野 教授で宇宙栄養研究センター センター長の二川健先生によると、無重力である宇宙では寝たきり状態と同じになり2週間で40%も筋肉が落ち、この筋力の衰え(廃用性筋萎縮)を抑えるためにもたんぱく質が有効だそうです。
二川健先生はスペースシャトル「ディスカバリー号」での実験により、筋萎縮にはCbl-b(シーブルビー)という酵素が関与していることを突き止め、そのCbl-bの活性を抑制するために大豆たんぱく質に含まれるグリシニンが有効であると説明します。
また、筋肉の部位によってたんぱく質種類による影響が違い、ホエイペプチドを摂取するとヒラメ筋の筋委縮の抑制が確認でき、大豆たんぱく質を摂取すると前頚骨筋(ぜんけいこつきん)の筋委縮の抑制が実験によって確認できたそうです。
これらの宇宙での実験成果を、超高齢化社会や災害時の栄養補給に役立てられないかと産官学が共同で実験や開発を行っています。例えば、骨粗しょう症には大豆や乳製品に含まれるイソフラボン、筋委縮には大豆たんぱく質や中鎖脂肪酸、抗酸化栄養にはポリフェノール…ほかにもミネラルで味覚異常を改善する実験など、私たちの生活にも役立つ機能性宇宙食の開発が進められています。
写真)二川健先生
長寿の村・短命の村では何が違うのか
近藤正二著「食と健康長寿」(日本老年医学会雑誌 3:74-77,1966.)によると、現代日本における長寿の村には以下のような食習慣が見られたそうです。
□肉・魚・卵もしくは大豆を毎日十分に食べる
□油を少しずつ毎日食べる
□海藻を常食する
□なるべく牛乳を飲む
□米の偏食大食はひかえる
必ず魚か大豆を常食し、さらに野菜も十分に食べている。海藻を常食している地域は脳卒中のリスクがすくなく長寿が多い。魚だけ米食だけといった地域は短命な傾向がみられるそうです。万遍なく動物性たんぱく質と植物性たんぱく質、脂質、ミネラルなどが摂れていることが大切なのです。
さて、キューサイ株式会社のおこなったアンケートによると、現代女性が「摂ることを制限している栄養素」として油・脂質は第2位と多く、それにともない動物性たんぱく質の摂取が減少しているそうです。
また、独自で行っている研究では、たんぱく質がその種類によって吸収パターンが異なることに着目し、植物性たんぱく質と動物性たんぱく質の同時に摂取することで、一種類のたんぱく質のみを摂取するよりも効率的に体内に吸収され、筋肉の萎縮を抑制する傾向があることを明らかにしており、今後もダブルたんぱくの配合を考えた食品の研究・開発に取り組んでいきたいとしています。