12月21日、「サントリーホール ブルーローズ」にて、障がいのある3人のピアニストがオーケストラ、合唱団と共演する「だれでも第九」が開催。ピアニストとして、それぞれハンディキャップを持つ東野寛子さん、古川結莉奈さん、宇佐美希和さんの3人が演奏に参加した。
同コンサートは、指一本から弾ける自動伴奏追従機能付きピアノ「だれでもピアノ」を使った初の試みで、障がいのある3人が「だれでもピアノ」を使いベートーヴェン「交響曲 第9番」を演奏。ハンデや演奏の経験などに関わらず「第九」を演奏したい熱い気持ちを持つ3人の夢の実現をサポートし、音楽に向き合う勇気と喜びを世界中の人々にお届けしたいという思いで、本コンサートは実施された。
演奏が始まる前に、本コンサートの音楽プロデュース・編曲を担当した高橋幸代さんより、開演挨拶が行われた。高橋さんは「2015年からだれでもピアノの伴奏制作や開発に携わってきました。開発のきっかけになった、宇佐美希和さんが一本指で奏でるショパンの『ノクターン』は忘れられません。一本一本の指を懸命に弾き、メロディは途切れ途切れになるけれど、そこには紛れもない希和さんの音楽がありました」と回顧。
続けて、「その演奏を支えるべく誕生しただれでもピアノは、その後も出会う人々の熱い思いに導かれて進化してきました。東野さん、古川さんもそのお一人です。彼女たちはこの9ヶ月、今日を待ちわびながら多くの山を越えてきました。私達は3人のピアニストの苦手な部分を補ったり、表現を引き出すお手伝いをしているに過ぎず、彼女たち自身が限界まで自分の可能性に挑戦してきました」と振り返った。
生まれつき右手に欠指の障がいがあり、過去にピアノを習おうとしたが手の障がいを理由に諦めた経験があるという東野さんは、今回「第九」の第1・2楽章をオーケストラとともに演奏。迫力のあるオーケストラの音に、東野さんが弾くだれでもピアノの音が混ざり合い、しっかりと楽曲を成立させていた。
コンサート後の囲み取材にて、「だれでも第九」という今回の挑戦について聞かれると、東野さんは「障がいの方もそうですけど、私は今39歳で、いろいろなことを諦めなければいけない年齢でもありますけど、その年齢で挑戦することができました。どんな状況でも挑戦を楽しめたらいいなと思いますし、社会がそれを応援できるようになったらいいと思います」とメッセージを発した。
先天性ミオパチーという筋肉の難病で身体を動かすことが難しく、普段ベッドに横になって過ごしている古川さんは、第3楽章をオーケストラとともに演奏。古川さんは、手の甲側の人差し指の関節で、単音ずつ確実に鍵盤を叩いてピアノを弾いていた。
「だれでも第九」に挑戦したきっかけを聞かれると、古川さんは「(チャイコフスキーの)『花のワルツ』とかが好きなんですけど、だれでもピアノで『第九』を弾いてみたいと思って挑戦しました」と返答。また、演奏中に思い浮かべた風景については「ふかふかのベッドでお友達とお話している夢を見ているような風景を想像して弾きました」と話していた。
普段は車椅子で生活し、右手は多少動かせるが、左手に不随意運動があるという宇佐美さんは、今回第4楽章をオーケストラと合唱とともに演奏。ピアノソロのような場面が多かったが、最後まで軽快なメロディを奏で続けていた。
「だれでも第九」に挑戦しようと思ったきっかけについて、宇佐美さんは「2015年にショパンの『ノクターン』を聴いて、弾きたいと思い続けてきました」と答えた。今回の活動を通じて一番伝えたいメッセージは「なにがあっても諦めなければ、見てくれる人は必ずいるので諦めずに続けることが大事だと思いました」と語った。