スケーターにとって欠かせない存在のスケートフィルマー。
世に出ているかっこいいスケートボードの映像は、彼らがいるから楽しむ事が出来る。
彼らは夏の暑さや、冬の寒さに耐え、時にはライダーが何時間とかけて技をメイクする歓喜の瞬間まで、ひたすらカメラを回し続けている。
今回は、今年31歳になり来年でスケートボードフィルマー歴10年の節目を迎える、厚東賢哉にフィルマーにとって、必要な事や大切にしている事、さらには撮影機材やライダーに言いたいことなど、根掘り葉掘り聞いてみた。
【山口県にはフィルマーがいなかった】
——フィルマーを目指したきっかけは?
自分にとってスケボーカッケーって思ったのは映像(スケートビデオ)なんですよね。
スケートビデオってプロライダーがいてフィルマーがいて、音楽も映像に合った編集がされてて…「オレはこれになりたい!」って思って。
自分は5~6年前に東京に出てきたんですけど、地元山口県でスケートボードにのめり込でた時は、大会とか無かったっていうか、大会っていう概念が無かったってのもあって(笑)
スケートボードといえば、ちゃんとしたカメラでちゃんとした人に撮ってもらって、ちゃんと編集されたビデオに出る。これがオレの最終目標だって思ってたんですが、山口県にはフィルマーがいなかった…。
そもそもスケーターもいなかった。
そんな中、数少ないスケーターとちょこちょこ仲良くなっていく内に、山口県内にフィルミングをしたことがあるっていう人が現れたんです。
山口大学の学生だったんですけど、その人が「オレの好きなビデオは」とか「こういうビデオを撮ってた」とか「カメラを皆でお金出し合って買った」とか、いろんな話を聞いてくうちに「そんな感じで作れるんなら、オレにも出来そうだな」と。
それでとりあえず、ハンディカムのビデオカメラを買って、アタッチメントのフィッシュアイ付けて撮ってましたね。
ちなみにその映像は、今のYouTubeチャンネルの一番最初にまだあるっすよ。E0+(イーゼロプラススケートフィルム)っていうやつでまだ残ってます。
オレの原点です。
E0+ skate films
【https://youtube.com/playlist?list=PL9BD76300E583EABB】
——じゃあ、きっかけは山口県にフィルマーがいなかったから?
うん、まぁ自分で撮られたいから、自分でカメラ買ったってのもある。
——自分を撮ってもらいたいからカメラを買った結果、フィルマーになってたと。
スケートビデオってフィルマー(が大事)じゃないですか。
どんなトリックでもカッコよく撮れないと様にならないし、逆に言ったら撮り方で何とかなる場合もあるし。
それで、プロが1人もいない山口県のスケーター達をカッコよく撮ろうと、試行錯誤を繰り返していくうちに、撮り方も上手くなっていきましたね。
【“この人に撮られたい”って思われるように】
——スポンサーがついているライダーに対して、思う事とかある?
フィルマーとして、〇〇君はスポンサー活動してるなぁ、逆に〇〇さんはしてねぇなぁっていうような話を、スケーターからもメーカーからも聞く機会が多いんですけど…。
例えば原価6000円の板をもらって、日本のスケーターの何割が実際の売り上げに貢献する事が出来ているんだろうって考えたら、きっとそんなにはいないと思うんすよ。
貢献するってどういう事なのかっていうと、例えば(森中)一誠とかは出来てると思うんです。
自分がスケートショップで働いてる時も、お客さんが「あ、森中一誠の板だ!」とか言ってたりするのを、直で聞くことが出来るから「お、売り上げに貢献してるなコイツ」みたいな。
どれだけ貢献しているのかって、明確に数字にする事は出来ないけど、やっぱりスポンサー受けてる以上は大事な事じゃないですか。
そういうの聞いた時は、積極的にライダー達には「この前おまえの話してる客来たよ」とか伝えたりしてます(笑)
※ショップスタッフとして働いているinstant渋谷店にて
——フィルマーの“いろは”とかってあるのかな?
まず遅刻しない事(笑)
ライダーがストレスにならないように、気持ちよくスケボー出来るように撮影する。
撮影中はトイレに行きたくないから、水分を取らない。
そして“この人に撮られたい”って思われるように。
あと大事なのが、ライダーの顔色を見て「こいつビビってんな」とか「こいつやめたがってるな」とか、わかるじゃないですか。その時にどんな声をかけるかっていう、さじ加減。
自分とライダーの関係性にもよるっすよね。
例えば、ビビってるだけでこいつなら出来るっしょっていう時は「いや、お前ビビってるだけっしょ」って感じで火をつかせたり。
きわどいですけどね、スケーター以前に人間同士のコミュニケーションが大事なんで。
他にもフィルマーは、スポットも知ってないといけないから「ココダメっぽいな」ってなった時に、フィルマーの知識として近くにどんなスポットがあるのかとかを知ってないといけない。
フィルマーの先輩でもある、ヒデ君(田中秀典)とかは知識膨大だから「この近くに○○のスポットあるから、そっち行こうか」とかすぐ言えるんですよ。
あと、ヒデ君のすごい所は“仏の安心感”。
「この人がフィルマーだったら大丈夫」っていう謎の安心感があるんすよ。
絶対に撮りこぼさないっていうのもそうだし、この人に撮ってもらったらメイク出来そうっていうのもあるし。
——フィルマーとしての美学はある?
すごく普遍的なんですけど、メイク映像が撮れた時にその場で映像チェックするじゃないですか、そこで「おー!!」ってなるようにしたい。
——映像チェックしてる時のコトー君の顔はけっこうドヤ顔だよね。
そりゃそうっすよ!「ドヤー!!」って。
逆にオレに撮られたら“他のフィルマーに撮られたくないなぁ”って思われるくらいにしたいっすね。
——撮影で1番心がけている事は?
撮影をしている根本的な理由が“楽しくなること”ですからね。
誰を撮るにしてもメイクしたら「イエーイ!終わったー!ナイスメイクー!」が1番気持ちいいし、そこが大事っすね。
その瞬間の為に行く。
スケートボードをする理由も“メイクして気持ちいい”ってなる為じゃないっすか。
スケートのフィルミングだって、仕事だろうと仕事じゃなかろうと、大事なのはそこっすよ。
“メイクしてイエーイ”。
——フィルマーとして、スケーターから認められる基準とかってある?
スラッシャーで使ってもらえたらじゃないですか(笑)
ThrasherMagazine・Crupié Wheels' "Multicultural" Video 2から
YouTube【https://youtu.be/SnCD9JKkHgY】
※この他にもThrasherMagazineにはAlmost Presents John Dilo's "Boss Fight" Part(https://youtu.be/DUG7AO5O9kU)や、The DC Promo Video(https://youtu.be/b4U1b7z9sPA)にも映像提供している。
——フィルマーならではの悩みは?
ステアの撮影とかだと、フットブレーキはつま先と踵を使い分けてるんですが(ソールのすり減りを分散させる為に)、スピード早い系の撮影や、ダウンヒルで低い位置での撮影となると、ずっと靴のつま先の内側辺りでブレーキをかけるんで、1日どころか数回で靴がダメになるっすね。
なので、スポットによっては靴を使い分けたりしてて、大理石のスポットだったら、いつものスケシュー履いていくけど、ソールが削れそうなスポットだと、どうでもいい靴履いて行ったりします。
それと、今は気の合う仲間しか撮らない。
「撮って欲しい」って頼まれて撮影しても、後から映像の扱いに対してあやふやな事になる。
これは仲間内でもなるんですよ。
「この前撮ったやつ、何カットかうちで使わせてよ」って言われて「いいよ!」って渡したら、そこから音沙汰無いとかざらにあって、そういうのなんか釈然としないじゃないですか。
だから仲間内で撮影してても「オレが使う」って宣言して「他で使いたかったらワンカット5千円で」とかって、最初に言う事にしたっすね(笑)
——そんな問題も起きるんだね。
映像を撮りためるってすごい大変な事ですからね、そんな大変な思いをして撮ったものを“どこに出すのか”とか“どこからお金出るのか”っていうのは、あやふやにさせないようにしたいっすね。
こういうのってアメリカとかも結構、曖昧らしいっすけどね。
——撮影していて“アガる”スケーターってどんなタイプ?
どんなスポットでも、とりあえず突っ込んで行く奴。
最近だと守重琳央(リオ)がヤバかったですね。
【それ、何の為にストリートで撮影してるの?】
——撮影に行くライダーに「これは言っておきたい!」っていうのは何かある?
スポッター(ストリートの撮影の際に車が来ないか、通行人が来ないかなどを確認し、トライしているスケーターにゴーサインを出す役割の人)を真面目にやれよ!って。
「おまえケータイいじってんじゃねーぞ!」「ちゃんと見てっか?事故起きたら、てめーのせいだぞ!」っていうぐらい、責任重大なポジションなんすよ。
ただ“待て”と“行け”って指示するだけで、誰でも出来ることじゃないですか。
デッキ飛ばしたら事故起きるくらいの場所もあるから、スポットによっては本当に命運を握ってる存在。
※スポッターを務める小島優斗。ストリートの撮影ではプロスケーターであっても、トリックに挑んでいない時は、自分の役割を見つけるのが基本。
——これからフィルマー目指したいっていうスケーターに向けて“こうしたらイケてる映像になるよ”とかってある?
そんなん無いっすよ(笑)
だってみんなが同じことやってたら、みんな同じになっちゃうじゃないすか。
固定観念に縛られてないで、画期的なやつを逆にオレに教えてくれって言いたい。
だいたいスケートビデオって、スケーター以外の人が見たら、きっとつまんないじゃないですか。
普通の人からしたら、同じようなアングルで、同じようなフィッシュアイで、同じような街中で、同じようなトリックをしてるって思われるんだろうなって。
だったら普通の人が見ても楽しめるような、何かないの?って考えちゃう。
——じゃあ、逆に“これはイケてないな”っていう撮影は?
単純に海があるスポットで海が映ってないとか、かっこいいビルがあるのにビルが映ってないとか。
それ、何の為にストリートで撮影してるの?じゃあパークでいいじゃんって。
ストリートで撮影してるから、イケてるって思ってない?って言いたい。
まぁ、当たり前の事なんですけど、そういうのを割と気にしてる。
“逆にパークで撮らない理由は何?”っていう。
——撮影機材を教えてください。
カメラ本体はパナソニックのルミックスGH5
レンズにこだわりは無くて、安い韓国製のSAMYANG(サムヤン)8ミリフィッシュアイに、ビルトロックスのスピードブースターっていうアダプターを付けてます。
アダプターを付ける理由としては、ニコンマウントのレンズでキャノンのボディに付けられるとかっていうメリットもあるんですけど、アダプターを付けないとフィッシュアイがあんまり強くならなくて、スケートの映像では弱くなっちゃうんですよ。なので、画角を強くするためにも使ってます。
他にも、さらに明るく撮れるとか、さらに広角で撮れるとか、アダプター1つでそういう効果がありますね。
レンズに関しては、高いやつ使ってもそんなに変わらないし、結局は綺麗に撮れるから。
それ以上求めると、桁が違ってくるっすね。
傷に関しても、今まで何百回と(デッキを)当てられてるけど、結構傷つかないっすね。
レンズが割れた事もなくて、傷がついた時も物によってはレンズだけ変えたりして、今まででもレンズを変えたのは2回くらい。
基本的にスタビライザーは使わなくて、手振れ補正も切ります。
手振れ補正切らないと変な挙動しちゃって、画角もちょっと狭くなるんですよ。
マイクも安いやつで、マイクは無いよりあった方がくらいで、特にこだわりは無いです。
最近だとVXスケートボードカメラマイクってのが、調子いいって聞くっす。乾いた音になるんで、スケートの撮影にはいいらしいっす。
最終的言いたいのは、機材は極力軽くしたいっすね(笑)
——フィルミング用のデッキセッティング教えて
デッキはぐんぐんチャンネルに登場した、自分でシェイプした細めの8インチ。
ウィールはFETHER(フェザー)ウィールの75aでめっちゃやわらかい。サイズは54ミリ、もうちょっとでかくてもいいんすけどね。
フィルミングは本当ならデッキもウィールも、もっとでかい方がいいんですけど、オレはあんまり関係ないんで。
ベアリングはANDALE(アンダレー)のスイスを使ってます、壊れにくいんで。
トラックはACE(エース)でグニャグニャっす。
ぐんぐんチャンネルより・スケボーを1から作ってみた
YouTube【https://youtu.be/ke_BOAsg6Bw】
【コトー流・編集術】
——編集ソフトは何を使ってるの?
簡単なフライヤーとかのデザインする時に、イラストレーターやフォトショップ使ってるから、その流れでAdobeのプレミアプロとアフターエフェクト。
アフターエフェクトで映像を加工して、編集していくみたいな感じで。
——映像の編集をする上で心がけてることはある?コトー流を教えて。
※自宅にて編集作業風景
まず第一に、音楽に合わせてカッコよくテンポよく、観る人が気持ちよく観れるように。
その上で、パート(個人のスケーターをフィチャーした映像)だったらアニメのオープニングみたいに。わかるっすか?(笑)
イントロでタイトル。タイトルはスケーターの名前ですよね。
アニメのオープニングだったら、そのアニメの登場人物が出るじゃないですか。
パートだったら、そいつがどういうスケートをするのかをまず見せる。
サビの部分にヤバいトリック。
締めで、一番でかいやつを見せて終わる。
これ、コトー流って言っていいんじゃないですか(笑)
【“仏の安心感”を引き継ぐ男?】
コトー君の撮影にたまに同行させてもらったり、コンテストやイベントで撮影の仕事をしている時に会ったりすると、まさにコトー君自身が言っていた“仏の安心感”を垣間見る事がある。
ストリートでは率先して、次のスポットの提案をしたり、キックアウトをくらった場所では粘るのか、引くかの判断、その他もろもろ…。
彼からすれば「田中秀典さんに比べたら、まだまだ…」と言うかもしれないが、ストリートの舞台で、ライダーとラインの取り方や構図で相談している所や、ハイスピードの若手ライダーを追い撮りする様を見ると、純粋に「フィルマーってカッコイイなぁ」と思う。
どの業界にも、いろいろな経験を経て、知識を吸収していないと醸し出せないオーラや、雰囲気というのがあるが、カメラを持ったコトー君もそんな人間の1人であり、さらには“仏の安心感”を引き継ぐ、フィルマーの1人だと勝手に思っている。
そのうち、コトー君のロン毛が螺髪(らほつ・大仏の頭についている丸まった、つぶつぶの髪の毛)になるのも、そう遠くないかもしれない。
【厚東賢哉】
スケートボードフィルマーとして活動する傍ら、Instant渋谷店で働き、新横浜スケートパークではスタッフ兼スクール講師、宮下公園スケートパークでもスケートスクールの講師を務めている。
【主な映像作品(YouTube)】
koto clip
【https://youtube.com/playlist?list=PLgS2oxr5tuzOAzZochDrFsnZyCIRNCZYO】
Roller sports club
【https://youtube.com/playlist?list=PLgS2oxr5tuzNYKGvlqIoW9gdrpQrVgS1D】
YOUNG LOVE ロサンゼルス3ヶ月のスケボー旅行記
YouTube【https://youtu.be/_yfV1Anc-pE】
【写真・文 小嶋 勝美】
スケートボードを趣味としており、ライターとしてスケートボード関連の記事を執筆。
約10年間芸人として活動後、現在は放送作家としても活動中。