近年、話題沸騰中のAI(人工知能)。チャットで指示を出すと人間並みの流ちょうな文章を作ってくれる「ChatGPT」が話題になっていますね。また、AIはカメラ映像で犯罪者の追跡などができるようにもなっています。また著名人の中には影武者がいるのではないかと噂されるケースもありますが、「本物かどうか?」の判断もAIが判定できてしまうんです。
そこで、今回は、AIの初歩的な概要から、どのような仕組みで影武者判定が行われるのかについて、「行動認識 AI」という技術をもとに防犯カメラシステムなどを開発している株式会社アジラの担当者に伺いました。
■AIとは?
「そもそもAIって何?」という人に向けて、まずAIの基本を解説します。
AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字をとった略称で、日本語では「人工知能」と訳されます。
人間の思考プロセスと同じように動作することから、知能を人工的に再現しているという意味で、人工知能と呼ばれています。もちろん人間ではなく、プログラムなので、さまざまな判断や振る舞いが可能なシステムのことを指しています。
AIは、膨大なデータを使って思考ができるため、人間が行う作業を高速かつ正確に処理することができるのが特徴です。
■著名人の影武者判定をAIで実施
今回、お話を伺ったのは、AI技術を開発・研究・提供している会社である株式会社アジラです。
アジラは日本とベトナムの共同創業者により設立された、「行動認識AI」と呼ばれる分野において世界有数の技術を持つスタートアップです。
今回、著名人の影武者判定をAIで実施したということから、そのやり方を尋ねてみました。
著名人が影武者を使って活動しているかどうかは、どのように判定するのでしょうか? アジラの取締役CTO 若狭 政啓さんは次のように話します。
「人はそれぞれ固有の歩行パターンである『歩容』を持っています。その歩容の特徴を、我々の開発したAIはデータとしてとらえることが可能です。例えば、同じ人間が歩いている映像を2パターン用意したとします。それぞれの映像の人物の歩容をAIがとらえ、どのような特徴を持っているかを解析します。2パターンの映像の解析結果を照合すると、どちらも似たような歩容の特徴を持っている人物と判定されます。すると、2パターンとも同一人物である確率が高いという結果が出ます」
●解析のイメージ
同一人物が服装を変えて歩いている様子をとらえている。
それぞれの画面における姿勢と行動の座標軸をとらえている。
頭の傾きや腰の位置など、それぞれの画面上で歩いている姿勢の特徴量をAIで判定する。
著名人の影武者判定においては、3パターンの動画を用いたそうです。
「今回、著名人と、その影武者の解析には3つの動画を使いました。一つは本物といわれる人物が歩行している動画、他の二つは影武者といわれる人物が歩行している動画です」
AIが解析した結果、どうだったのでしょうか?
「特徴量が90%以上合致すると『ほぼ同一人物である』と言えるのですが、著名人の3つの動画比較では、合致率が80%台でした。また、影武者同士といわれる映像の比較では60%台とかなり低い数値だったため、3つの動画の人物において『他人の可能性がある』という指摘をさせていただきました。
今回のケースでは、人の眼でも、本物といわれる映像は他2つに比べ、やや前のめりの姿勢であることが確認できました」
■「行動認識AI」って?
今回、影武者判定を行った技術は、AIの中でも「行動認識AI」と呼ばれるものだそうです。
行動認識AIとは、どんなAIなのでしょうか?
「行動認識AIは、行動に特化した解析技術です。先にご紹介した判定は、2つのAIが組み合わさったものです。まずカメラ映像からAIが人の姿勢を推定します。次に、時系列で変化する姿勢から、AIが行動を推定します。これにより、人がどのような行動を取っているのかを推定することができます。アジラは特にこの姿勢推定において優秀なAIアルゴリズムを自社開発しているので、複数人が集まった環境などでも人物の検出と行動の推定が可能です」
現在、この行動認識AIは、AI警備システム「アジラ」という、監視カメラにAIを搭載しているサービスに使用されています。そのため、次のような用途で利用されているそうです。
●「侵入」検知
カメラに映った人物が、侵入不可な場所に入ったら自動でアラートを挙げる。
●「異常・不審行動」検知
カメラに映った人物が、喧嘩や暴力とみられるような異常・不審行動をとったときに自動でアラートを挙げる。
●「転倒」「ふらつき」検知
カメラに映った工場などで作業されている方が、熱中症で倒れたり、ふらついたりするのを検知する。
●「白杖・車いす利用者」検知
カメラ内で白杖や車いすを利用されている人を検知する。
「行動認識AIは、今、行われている『行動』自体の検知だけでなく、その行動を行っている人物自体の推定、年齢や性別、感情なども取得できるため、警備的な使い方だけでなく、マーケティング用途や病気の早期発見などにも活かすことができます」
先日、アジラは最新技術発表会を開催し、人の動きから感情を推定する技術を国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の平井真洋 准教授とともに開発していることを発表しました。
将来的には感情推定により、人はいま怒っているのか、ハッピーなのかがわかるようになる可能性があるとのこと。そうなれば、若狭さんが言うように事故や事件の予防はもちろん、マーケティングなどにも使える可能性があります。ビジネスに大いに役立てられそうですね。
AIは、今後もさらに進化していきそうです。ぜひこの機会に、理解を深めてみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
株式会社アジラ(https://jp.asilla.com/)
取締役CTO 若狭 政啓(わかさ まさひろ)さん
日揮株式会社に入社後、クウェート国建設現場駐在を経てプラント設計IT業務に従事。株式会社アジラにて、行動認識AIに関する概念実証、及び製品開発プロジェクトを担当。2022年4月には執行役員CTO、2023年3月に取締役CTOに就任。