VR上の仮想空間(メタバース)をアバターで活動するさいに、視覚情報と脳の認識のタイムラグなどによって引き起こされる、ひどい車酔いにも似た症状、いわゆる“VR酔い”の課題が解決するかもしれません。
世界で初めてVR酔いを軽減できる「VRun System」をコア技術にしたワールドクリエイョンエディター「Metaverse Engine」および、その技術を用いたメタバースプラットホーム「The Connected World」が「株式会社雪雲」(長野県長野市)の伊藤克CEOと丸山謙一郎CTOらにより開発され、記者発表会が都内で行われました。
写真左から)「株式会社雪雲」の丸山謙一郎氏、伊藤克氏
新たなメタバース空間「The Connected World」は、ライセンスを受けた企業や団体が運営・展開する「World」と、ユーザーが活動するVR空間「Land」とで構成されており、ユーザーはWorldにおけるルールに従いながら「Metaverse Engine」を利用しアバターやアイテムを制作、直感的に空間をつくりあげることができます。
注目すべき点はなんといっても「VRun System」技術による酔いにくい環境。「The Connected World」では、今どきのゲーム機並みの表現力を備えたVR映像を、酔いにくい環境で楽しめるほか、数千人という規模の同時接続数を可能にしています。
既存のVR HMD やVRアプリケーションでは、VR空間で静止しているにも関わらず視覚情報によって動いているように錯覚してしまう現象“Vection(ベクション)”を軽くさせるために、FPS(1秒間あたりのフレーム数)を90~120Hzと高水準に保ち映像を滑らかにする、あるいは、移動の加減速度を抑えて一定速度にするなどの方法で解決しています。これにより、3D酔いやVR酔いによる不快感などの軽減に繋がるものの、PCやゲーム機に高い性能を要求したり、ゲームの内容に制約をかけたりといった課題が生じます。
一方、今回発表された「VRun System」では、Vectionを脳に許容させるといった生理学的アプローチを採用。FPS が30 Hzというフレーム数でも酔いにくい環境を実現させており、これにより、VR内を酔わずに自由に移動したり、ストレスなく長時間プレイしたりすることが可能になるほか、フレーム数を落とした低スペックのVR機器での高画質VR映像の再現、さらに、グラフィックの負荷が抑えられることで同時多人数接続がスムーズになります。
また、「VRun System」は専用のVRハードウェアを必要せず、既存のVR HMDやゲームエンジンと組み合わせて動かすことが可能なため、汎用性が高く導入時のハードルが低いのも特徴です。(ちなみに発表会でのデモ環境はゲームエンジンの「Unity」、VR HMDは「Oculus Rift S」を使用)
実際にデモ映像を体験したところ、フィールド上の岩山から斜面への大ジャンプなど、VR空間内で人間の運動能力を超えた“ゲームらしい”動きをしても目が回るようなことがありませんでした。さらに、ある対象物(デモ映像では恐竜)をターゲットにした場合、対象物を中心に据えながらの動きが可能なため、常に対象物と自身との位置関係を把握しやすく、感覚的に普段遊んでいるゲームソフトの世界へそのまま入り込んでしまったような体験ができました。
写真)「The Connected World」のデモ映像。樹木の影や木漏れ日の描写が美しい。
写真)対象物を中心に据えながらの動きが可能なため、常に対象物と自身との位置関係を把握しやすい。
なお、現在「株式会社雪雲」では「The Connected World」を用いたMMORPGを開発中であり、無料テスト版を2022年12月に公開予定です。(リリースは2023年2月の予定)また、今後は産学官連携のもと「World」や「Land」の開発および提供を目指し、より多くの人が自由な表現と社会参加可能なメタバースの世界を実現させたいとしています。