家族が「がん」にかかった時。今まで口に出せなかった『本音』

2016/02/17
akikki

がん患者の家族は、患者と同じ心理ストレスにさいなまれることなどから、『第2の患者』と呼ばれるのですが、そのつらさはなかなか気づかれにくいもの……。

がん患者の家族に、『今で口に出せなかった本音』をうかがうシリーズ。

第1回目は、白血病にかかった夫と妻のお話です。

 

“急性骨髄性白血病の告知” なのに立ち話

谷口みのりさん(仮名・45歳)の夫、亮司さん(仮名・46歳)が急性骨髄性白血病と告知されたのは、2010年5月末でした。

 

倦怠感と夜間の発熱など、風邪のような症状が1か月くらい続いていた亮司さんは、地域の中堅病院で血液検査をしたところ、血小板が異常に少なくなっていて、緊急入院になりました。

 

―― 告知された時のことを覚えていますか?

 

骨髄検査を受けた日の夕方、夫と病院の廊下を歩いていると、担当医がたまたま向こうからやってきて、「あー、谷口さん。急性骨髄性白血病でしたよ。」と。立ち話で告知ですよ。しかも、白血病って……。唐突すぎですよね。

 

―― ご主人が白血病を告知されて、どう感じられましたか?

 

私の伯父や友人が白血病で亡くなっているので、今、目の前にいる夫の命がもうないのかと、恐怖を感じました。

治療にかかるお金のことや子どものことなど、一瞬で色々な不安の波がやってきましたが、隣で蒼白になっている夫を見て、私が頑張って支えてあげなきゃと強く思いました。

 

1日7時間、暴言を聞き続ける

がんを告知された患者さんのおよそ3割は、適応障害などを起こすと言われています。ただそれも2週間ほどで収まる人がほとんどですが、亮司さんの場合は、2週間たっても不眠やイラつきが収まらず、みのりさんに八つ当たりして、暴言を吐き続けたと言います。

 

―― 具体的に、どんなことを言われたんでしょうか?

 

自分の白血病が私のせいだと責めることが多かったです。私が部屋をちゃんときれいに片づけていなかったからだとか、子どもの世話にかまけて夫をないがしろにしたからだとか、子どもの夜泣きで寝不足にされたせいだとか…。

 

あとは、私が夫の話を聞く態度がなってないとか、言葉に気持ちがこもっていないとか。そういう暴言や愚痴を朝、9時半くらいから、夕方4時過ぎまで聞かされ続けました。

 

―― どのように対処されたのでしょう

 

大変な病気にかかって不安なんだろうな、当たる相手が私しかいないんだろうなと思って、がまんしていました。それに、毎日、病気が私のせいだと言われているうちに、変なんですけど、なんだか本当にそんな気がしてきちゃったんですよ。

 

励ましが呪いの言葉に…。自殺を考えるほど追いつめられた退院後。

現在、治療後4年目に入った亮司さん。白血病は、『2年で一息、5年で安心』と言われるそうなので、あと少しで再発の心配がなくなる『安心』にこぎつけます。入院治療後、2か月ほど自宅療養をして会社に復帰。営業から内勤に異動し、通院などへの配慮もありましたが…

 

―― 会社復帰後は順調でしたか?

 

病気以前はトップ営業マンだった夫は、慣れない内勤や体力の低下、倦怠感などがあって、会社への不満がたまり、私への八つ当たりがひどくなりました……。入院中より、その後の方がつらかったです。自殺を考えるほど追い詰められました。

 

―― まわりの方に相談されなかったのでしょうか?

 

「ご主人は大病して、いろいろ大変なのよ。」とか、「奥さんなんだから、支えてあげないと。」と励まされるんですよ。夫が大変なのは分かります。でも、毎日、八つ当たりされて暴言はかれて、まわりにも私が頑張らなきゃと言われると、「あぁ、私が悪いんだ。私が足りないんだ…」って、どんどん落ち込んだんです。

 

―― 今も、そういうお気持ちでしょうか

 

あるとき、死ぬ前に整理しようと、夫に言われたことや自分の気持ち、やってきたことをノートに書き出したんです。そうしたら…、「あれ? 私、頑張ってるんじゃない?」って気づいたんです。どう考えても、夫の暴言のほうが変だと。それで、「そんな夫のために私が死ぬなんて、おかしい!」と思ったら、目の前がパーッと明るくなりました。今は、暴言をはかれても、そこまで傷つきません。

 

実は、最初、ちょっと期待したんですよ。夫が家族愛に目覚めてくれるかなと。闘病記を読むと、だいたいみなさん、家族や配偶者に感謝していますよね。夫に感謝して欲しいわけじゃないんです。ただ、普通の家族愛に目覚めて欲しかったなと。

 

でも退院後、言われたんです。「おまえも白血病になればいい!そうなったら、笑ってやるよ!」って。病気が言わせた言葉なのかもしれませんが……、ひどいでしょ。

 

治療して5年目に入り、再発の心配がなくなったら、あらためて将来のことをよく話し合います。そこで家族への愛情が感じられなければ、離婚も仕方ないかなと思うんです。私ももう十分、頑張ったので……。

 

 

最後に、みのりさんが、心理学的側面を支援する精神腫瘍科という専門科の話しをされていました。

サイコオンコロジーといわれる、がん医療における心の医学”心のケア”をおこなう精神科のことです。

 

「相談できる。話せる人がいると楽になります。担当医の方には、色々話しづらいし、聞きづらいこともありますから。告知が立ち話しで始まったくらいですから……ね」

 

一生涯で、がんを患う可能性は、男性が62%、女性は46%と言われています。
そして、1人の“がん患者”につき、配偶者、親、兄弟、子どもなど、何人もの“がん患者の家族”が誕生しているのです。

 

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がんサポート 3月号
 エビデンス社

 

 

< 取材・文 / akikki  >

 

 

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この記事を書いた人

akikki

「泉ピン子&橋田壽賀子 ふたり旅スペシャル」「はなまるマーケット」「東京フレンドパーク2」「地球に好奇心」など。「21世紀への伝言~天に1番近い村」(ドキュメンタリー)でギャラクシー賞、ATP賞受賞。医療・健康系、ドキュメントが得意で、特技は、オーラ鑑定。プライベートでは、6歳男児の素敵なおバカぶりに、毎日、癒されています。

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