いよいよ2月28日(日本時間では29日)にアカデミー賞が発表されます。
2015年公開の映画から、作品賞や監督賞、各俳優部門にスタッフ各部門、ドキュメンタリーやアニメーション部門等々の最優秀賞を選ぶ、今年でなんと88回目を迎える、年に一度の映画の祭典です。
世界中の映画ファンは先に発表されるノミネートから受賞作品、受賞者を予想したり、今後鑑賞する作品選びの参考にしたりと、毎年非常に盛り上がりますが、審査員が白人ばかりといった批判が生じることも(実際、今年は俳優部門で非白人のノミネートがゼロなのはおかしくないか?と問題視されています)。
アカデミー賞はあくまでアメリカ映画が対象
もっとも、アカデミー賞が対象とするのはアメリカ国内で公開された映画のみ。さらに細かく書くと、ロサンゼルスで公開された英語音声の映画であること、さらにはもっと細かい条件が複数。
大雑把にいえばアカデミー賞はあくまでもアメリカのメジャー映画を対象とした賞であり、その知名度や注目度の高さとは裏原に、決して全世界の映画の最高峰ということではないのです。
賞より“ショー”として面白い!
アカデミー賞が注目されるのは、ハリウッド映画という大きなマーケットがあるのもありますが“賞のショー”として華やかであることが大きいでしょう。女優陣や俳優陣のドレスやタキシードは、毎年、全世界の注目の的です。
ちなみにアカデミー賞と並んで知名度の上がってきたゴールデングローブ賞も、やはりアメリカ国内の映画やドラマに与えられる賞となります。アカデミー賞の前章戦として見るのも面白いです。
アカデミー賞以外もある注目の映画賞
アカデミー賞より、前日に開催される『インディペンデント・スピリット賞』を楽しみにしている映画ファンは少なくありません。ざっくりと説明するとアメリカで公開された低予算インディペンデント映画に贈られる賞です。
条件は上映時間が70分以上あること、制作費が2000万ドル以下(それでも上限は約20億!)など。思わぬ新人監督が出てきたり、ある意味ハリウッドらしくない(と、書いたら語弊があるか)良作のヒューマンドラマがノミネートされたりとアカデミー賞ノミネート作品とは一味違う映画を知ることが出来ます。
ちなみに筆者は、以前マガジンサミットにも書いたことがあるようにゾンビ映画が大好きなのですが、そういったホラー専門の『スクリーム賞』や『サターン』などもあるので、レビュー記事などでそれらの賞名が出てきたら興味をもってもらうのも一興です。
映画を楽しむなら世界中の映画賞を参考に
アメリカ映画の良作だけを観たいのであれば問題ありませんが、もっと広く、世界中のいい映画を観たい、その選別基準になるような映画賞はないの?とお思いの方もいるかもしれません。
実際のところ、世界各国で相当な数の映画賞が開催されていますが、基本的にはいずれもその国で制作された作品が対象。
カンヌやベルリンでは世界中から集められた映画を上映する国際映画祭で各賞を決めますが、これもその映画祭で上映された作品に対象は限られます。
ということで、本当に広い範囲でいい映画を観たい方は、ひとつの映画賞を参考にするのではなく、さまざまな映画賞を見渡してみる必要があるでしょう。その際に参考になるのが、日本の老舗映画雑誌『キネマ旬報』。
毎年刊行される『キネマ旬報ベスト・テン』特集号では、内外の映画賞や映画祭の受賞結果の一覧も掲載されているので、各映画賞にまたがってタイトルの挙がっている作品から優先的に観ていく、といった使い方もできるでしょう。
また、そもそもの特集タイトルである“キネマ旬報ベスト・テン”も、『日本映画ベスト』と『外国映画ベスト』に括られており、『外国映画ベスト』は要するに日本映画以外は全てが対象となっているため、アメリカ映画に特化したアカデミー賞以上に広範囲の良作を知ることができることが可能な映画賞といえるかもしれません。
映画あってこその映画賞
とはいえ、各映画賞でナンバーワンとなった作品が、かならずしも全ての人にとってのナンバーワンではありません。評価が一致する映画賞もあれば、自分の趣味とことごとくあわない映画賞もあるでしょう。こうした共感も差異も、まずはそこで選出される映画そのものを観ていなければわかりません。
映画を観る参考に映画賞を確認するのも当然アリですが、映画賞あってこその映画ではなく、映画あってこその映画賞であることをお忘れなく!
< 取材・文 / 田中元 >