美人姉妹が“赤ちゃんおじさん”のえじきに…フレンチ美女監禁ホラーが令和猛暑を冷やす

2019/08/08
石井隼人

フランス映画界の鬼才パスカル・ロジェ監督が、またやってくれた。約6年ぶりの新作ホラー『ゴーストランドの惨劇』(8月9日公開)で、約2回は椅子から転げ落ちる度肝ブチ抜きの奇々怪々な展開と恐怖を見事にやってのけてくれた。

世界中のホラーファンのソウルに“パスカル・ロジェ”という名前を刻み付けた阿鼻叫喚スプラッター映画『マーターズ』(2009)。その血しぶき描写から一転、モダンホラー調の演出で監督としての厚みを見せた『トールマン』(2012)。ロジェ監督作に共通するのは、ストーリーが二転三転する強烈なツイスト。物語の前半と後半が思いもよらぬ展開でガラリと変化し、2本分の映画を見せられた気分になるのが持ち味だ。

新作『ゴーストランドの惨劇』では、謎の“赤ちゃんおじさん”と“魔女おじさん”に襲撃された美人姉妹の恐怖が描かれる。アメリカが生んだモダンホラー小説の祖ハワード・P・ラヴクラフトへの言及や、妄想と現実を行き来するかのような描写を挟み込み、一筋縄ではいかない怒涛かつ奇抜な展開が待ち受ける。

薄気味の悪い館に引っ越してきたシングルマザーのポリーンと双子の姉妹ヴェスとベラが、激ヤバな雰囲気を醸し出すキャンディーカーに乗った二人組の怪人物に襲撃される。縦横無尽の大暴れ、怪力バイオレンスのつるべ打ち。しかし、あわや!のところで母ポリーンの反撃で襲撃者を返り討ちにする。

それから16年後。怪奇作家ラヴクラフトを崇拝する妹ベラは独り立ちしてホラー小説家として大成する。その一方で、薄気味の悪い館に母と残った姉のヴェスは、いるはずのない16年前の襲撃者の残像におびえる日々を送っていた。なぜ母ポリーンと姉ヴェスは忌まわしき惨劇の館に残るのか?姉ヴェスは一体何に怯えているのか?鏡に殴り書きされる悲痛なメッセージの真意とは?

ヴェスとベラは双子の姉妹ながらも、一方は現実主義者、一方は妄想好きの小説家。この似て非なる者同士の関係性がストーリーのカギであり大きな伏線になる。すべての事実が明かされ、それまでの設定がひっくり返されたとき、本作は“スリラー”から“残酷な童話”にジャンルチェンジ。襲撃者である赤ちゃんのような見た目のおじさんはまるで怪物だし、その母親的役割の女装細マッチョおじさんの見た目はまるで魔女のよう。そのおとぎ話の世界から飛び出してきたような気色悪いビジュアルが暗喩の役割を果たす。

それはアメリカンホラーにはない、芸術大国フランスならではの詩的な仕掛けであり「ホラーこそ、上手く作れば深い作品を生み出すことのできるジャンルだ」というロジェ監督の信念が投影されている。詩的といいつつも、美人姉妹を精神的・肉体的に追い詰める様は容赦ない。全裸絶叫。片足を持ち上げられて逆さ吊り。ガスバーナーでの…。令和初の猛暑、フランスの鬼才が生み出す恐怖に心底冷えてほしい。

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石井隼人
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石井隼人

映画好きエンタメ系フリーライター。「来るもの拒まず平身低頭崖っぷち」を座右の銘に、映画・音楽・芸能・テレビ番組などジャンル選ばず取材の日々。ありがたいことに映画作品のパンフレット執筆、オフィシャルライター&カメラマンを拝命されたり、舞台挨拶の司会をしたり…何でもやります!

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