予防医学に産業医の活躍が必要!「ヴェリタスジャパン」中川隆太郎先生インタビュー

2019/02/27
マガジンサミット編集部

今、日本国内の医療は縮小傾向にあり、特に医療が充分に整わない地域では病気にかかりにくい体づくり「予防医学」が大切になってきます。

例えば、徐々に重症化し治療が長期に及ぶ糖尿病のような慢性疾患などは、その発症をかなりの割合で予防できます。日本は、1年で1兆円ぐらい透析費用かかっている。そのうち10%くらいは予防できたかもしれない患者さんで、もし彼らが健康であれば多くの医療費が削減できます。

もっと広く捉えると慢性疾患のうち予防できるものが約15%~20%で、全治療の20%か25%といわれています。日本の医療費は42兆円あるので、10%~15%でも約3~4兆円ぐらいは削減できます。その医療費が他に利用できれば、もっと多くのことができるはずです。

ところが、しっかりと予防し管理しなさいと言われても20%くらいの患者さんが初期治療を継続できずドロップアウトしてしまう。末梢の障害や視力の著しい低下、腎不全になり透析治療を受けるほどの症状になって、はじめて自分ごととして捉えるんです。

アメリカなどは病気になった場合、基本的に医療費はすべて自己負担ですから、病気になることにナーバスです。日本は国民皆保険制度なので、いつ病気になっても保険料の負担率が変わりません。健康診断も会社で年に一度ただ受ければいいという感覚で、予防に積極的にならないのは、そのあたりも関係しているかも知れません。

予防のモチベーションをどう維持するのか?

病気の予防啓発の場として、企業の健康診断がもっと活用できるのではないかと思っています。患者でなく従業員という立場ならば、予防に対して積極的になり意識も変わるのではないでしょうか。健康チェックだけでなく、結果に対する未来予測と指導をしっかりとできれば予防率は必ず上ると思います。そこで、活躍を期待できるのが企業にいる産業医たちです。

今、日本に医師は32万人。そのうち産業医の資格を持っている医師は8万人ぐらい、実働しているのは2万人くらいです。産業医には嘱託と専属がおり、従業員50人以上の会社では嘱託産業医1名設置する必要があります。従業員50人以上の企業が、日本には16万社ぐらいあると言われていますが、名義貸しが半分くらい存在する可能性があるので、実際に日本の企業の健康を支えているのは一部の産業医です。

昨今、49人以下の企業でも積極的に産業医を選任して健康管理を行う企業が増えています。産業医の重要性は広がり、今後さらに企業に対する産業医の数は不足してくる可能性があります。

産業医の仕事

写真)イメージ

産業医の仕事は多岐にわたり、簡単に説明すると下記のような業務があります。

■衛生委員会・安全衛生委員会への構成員として、月1回の出席義務。

■手洗い 喫煙など、健康管理についてのレクチャー。インフルエンザのワクチンのススメ、腰痛予防の方法など、健康管理や衛生管理を目的とした社員向け研修(衛生講話)の実施。

■休憩室はあるのか、 職場は清潔か、照明の明るさは基準を満たしているか…など「職場を巡視し職場環境の確認」。

■従業員の健康診断結果チェックや健康相談。

■健康・メンタル面が理由と確認された従業員の休職面談・復職面談。

■ストレスチェック実施。高ストレス者面接指導。

■80時間以上残業した際の長時間労働者に対する面談…

労務や法務の問題なども絡むこれらの課題を産業医が全部こなさなければいけない。しかも、月1回の会社訪問だけでは産業保険活動はしっかりとできません。そこで産業医が働きやすく、企業への産業保険活動をしっかりできる環境づくりをサポートするバックオフィス「ヴェリタスジャパン」を始めたわけです。

出典)https://veritas-japan.co.jp/

「ヴェリタスジャパン」では、産業カウンセラーや精神保健福祉士、心理相談員、弁護士や社労士などが在籍しており、連携しながら産業医の負担を軽減させています。

企業側は、その都度、会社の状況に適した分野の産業医を頼むことができます。例えば、40~50代の中年男性社員が多い会社では、糖尿病や脂質異常症など生活習慣病に詳しい内科系ドクターが適任です。しかし、新入社員が増えたのでメンタル系のドクターを探しているなどの場合に、弊社に在籍の産業医の中でスムーズに対応できるようにしています。

その他、企業、ドクターと相談しながら衛生講話の資料作成を行い、より企業に適した情報を提供するなど、産業医と企業をマッチングさせるだけではなく、我々がドクターと企業側、双方の窓口になることで、両者の関係を最適化しています。

医者の夢が持続するようなサポートをしたい

初めて起業したのは23歳、医学部生の時です。

医大の同期は皆、「交通事故を目撃して、人を助けられる人になりたい」「発展途上国の医療に貢献したい」など、しっかりとした目標がありました。一方、僕は漠然と父が医者なので医者になるのだろうと…そんなボンヤリした理由で医学部に入った。ところが、あれほど理想のあった仲間たちが、卒業が近づくにつれ、入学時の目標とは違い、夢や理想を追えず実臨床との間で悩んでいる姿を見て、医師のキャリアに不安や懸念がないようサポートできないかと思ったのが起業したきっかけです。

それに、ちょうど医局制度の崩壊が始まり、いったん大学病院を離れて他で勤務していたドクターたちが大学の医局に戻って来られにくくなっていました。そこで、医局の変わりに病院とドクターの橋渡しをする会社が必要だと考えました。

長い医師のキャリア形成の中で目指す目標を聞き、5年後、10年後のプランを考えながらサポートする…そのような想いは「ヴェリタスジャパン」に引き継がれています。志があって産業医のライセンスを取得したのに、実際はほとんどが産業医としての活躍はなく、企業へフィードバックもされていない。もったいないですよね。

公衆衛生の観点から、日本の予防医療の充実をめざす

今後は、公衆衛生で学んだ医療をすべての必要としている方に届けることをめざし、健康診断や産業保健活動での蓄積されたデータを解析しながら健康をサポートしていきたいです。

公衆衛生の概念で考えれば、医療は営利でも非営利でもなく、継続に必要な代価は頂戴するものです。そして、しっかりと市場にフィードバックすることが大切です。

僕ともう一人、取締役がいるのですが、ハーバード大学研究員時代に一緒になって以来の仲です。日本の予防医学についてお互い思うところがあり、彼は、日本の予防医学は医師側の教育をしっかりやらないとは意味がない。僕は患者さん啓蒙こそが必要という意見で、今も同じ議論を繰り返しています。きっとどちらも大切、目指す理想の予防医学を日本に定着させてゆきたいですね。

中川隆太郎 

東京医科大学医学部、Our Lady of Fatima University医学部を卒業。
ハーバード大学公衆衛生大学院の客員研究員として予防医学の研究を行う。
糖尿病予防などの健康管理を行うアプリケーションを提供する「株式会社メレコム」
産業医に特化したマッチングサービス 「産業医ラボ.com」やメンタルヘルス相談窓口や健康診断サポートを行う「株式会社Varitas Japan」などを展開する。

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